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 おばけ屋敷でGO!!   書いた人:北神的離

第2話 −入館−

「こんなところに呼び出して、一体何の用なんですか?」

 暗い夜道を提灯……遥か東の国から取り寄せた携帯型の灯具……をちっちゃな右手に、ここに来る途中に買ってもらったイチゴシロップのたっぷり掛かったかき氷を左手に持ちながらショートカットの少女…ファナは横を歩く姉に問い掛けた。

「ふふ…面白い所に連れてってあげようと思ってね」

 そんな妹に姉…フェリアはただ妖しく微笑むだけだった。 




 おばけ屋敷でGO!!   第2話 −入館−




 やがて2人は古びた洋館の前に来た。
 荒地のど真ん中にそびえたつ洋館はそれだけで異様な気配を漂わせている。
 ぎゃぁ、ぎゃぁ、と、種類の判別も困難な怪鳥の鳴き声がBGMとなり、空に浮かんでいた満月が徐々に暗雲に覆われる。
 絶好の肝試し日和だ。

 ファナの顔にひとかけらの怯えが見える。
 この洋館の放つ気配に圧倒されているのだろう。

 にやり

 フェリアの口元が僅かに歪む。

(ふっふっふ、この子、昔からお化けとかそういうの苦手だったからね、この機会に思いっきし復讐してあげるわ)

 フェリアの腰に下げたポーチの中には昨日舞い込んだ紙切れ……新設されたらしいお化け屋敷の招待状が仕舞ってある。
 それを読み、これ幸いとファナを誘い、お化け屋敷へと赴いた訳だ。

「さ、行くわよ、ファナ」

 フェリアは妹の手を引きながら館の扉を開こうとする……

 がちゃり

 その前に扉は勝手に開き、突如、中から人影が現れた。

『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 2人の声がハモる。

 すしゃばきぃ

 そして絶叫しながら、問答無用で攻撃する。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 フェリアの蹴りとファナの正拳突きをまともに食らった人影は勢い良く吹き飛んだ。

「どうだ参ったかって…あれ…生きてる……?」

「あたりまえだぁ!!」

 その人影…どうやら中年の男のようだ…は、立ち上がってフェリア達の方へ戻って来る。

「おっかしいなぁ…完全に仕留めたと思ったのに…」

「仕留められてたまるかぁぁぁぁぁぁ!!」

 男は叫ぶ、当然だろう。
 そしてはっ、と現状に立ち返り、本来の職務を遂行しようとする。

「申し送れました、私はこの『恐怖の館』の管理人、ケータローと申します」

「…あまりこの辺じゃ聞かない雰囲気の名前ですね」

「遥か東方の倭の国からやって参りました」

 なるほど。
 フェリアは納得した。
 そういえば服装も顔つきもここら辺の人々とは微妙に違う。

 倭の国……大陸の最東に位置する小さな島であるが、文明発祥以来外界との交流がほとんど無かった為、独自の進化を遂げてきた国である。
 数十年前、マルコという人物が母を尋ねて世界各地を渡り歩き、この国を発見して以来、少しずつその存在が知られつつあるが、いまだ謎の部分も多い国でもある。

「この度は『恐怖の館』にご来店、真にありがとうございます……」

 しゃく、しゃく、しゃく…

「この館には東方に伝わる妖の類をふんだんに取り揃えて……」

 しゃく、しゃく、しゃく、しゃく……

 フェリアは聞きながらかき氷を食べている。

「姉様、人の話を聞きながら物を食べるなんて、行儀が悪いですよ」

「だって早く食べないと溶けちゃうし」

 ファナが小声で注意するが聞く耳持たない。

「この館での目的は、最上階と地下室にある二つの鍵を手に入れ、ある部屋に隠された『証』を持ち帰る事です…あ、ちなみに途中下車は出来ませんのでご注意を」

「判った判った、判ったから早く入るわよ」

 半分以上も聞いちゃいなかったフェリアが中に入ろうとするのをケータローは呼びとめる。

「ああ、危険物の持ち込みはご遠慮願います、それとコレを」

 言うとフェリアの腰に下がった剣を取り上げ、2人にリストバンドのような物を手渡す。

「このバンドには魔力を封じ込める結界が張ってあります、一度はめると私以外には外せないようになっていますが、無事脱出できたあかつきには外して差し上げますのでご了承ください」

「…やけに念入りね…」

 訝しげに見るフェリアに、少し悲しげな表情でケータローは答える。

「いえ、以前この国のお偉い方が視察に来たのですが、恐怖のあまり魔法を乱発して館が半壊いたしましたので……」

「………ミゼット様ね」

「ミゼットさんですね」

 2人は納得する。
 その時の様子が目を閉じればありありと思い描ける。
 最初の客が彼女では、用心したくなるのも頷ける話だ。

 言われた通りにリストバンドをはめ、館の中に入る2人…

 

「どうぞ、お気をつけて……」

 ケータローの声が、暗闇に響いた……



 続く

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