魔王デモクラウス率いる鬼畜兵団ゴーグレンの、恐るべき物量による侵略から世界を守るため、宮内庁は勇気あふれる3人の若者を集めた。
「鉄血戦隊、ファシズマン!」
暖冬とはいえ寒波が到来して寒くなった冬の町を、凛とした表情で足早に歩き回る女性がいた。彼女の名は芦川恵子、一見するとそこいらの学生かといった風体である。しかしてその実体は、悪の鬼畜兵団ゴーグレンから世界を守るファシズマンのメンバー、ブルーランチャー。人々をゴーグレンの脅威から守るため、今日もパトロールを行っているのだ。誰も家に閉じこもりがちなこの季節だが、それでも公園で走り回る風の子もいる。その元気な姿に穏やかな眼差しを向け、女戦士は少し口元を緩めた。
冷たい風が通りを吹き抜け、思わず恵子は肩を縮ませる。戦士の彼女とて生身の人間、冷えこむ時期のパトロールは辛い。白い吐息を両手にかけて、道路脇の自販機にコインを投入。取出し口に落ちてきたホットの缶コーヒーで手を温め、少しずつ飲みながらまた歩き始めた。それから暫く巡回を続け、飲み終えた空き缶をくずかごに入れて時計を確認する。そろそろ交代の時間だ。
「特に異常なしか」
もう一度だけ辺りを見まわし、恵子は基地への帰路に着いた。
基地に戻った彼女が廊下を歩いていると、休憩所の自販機で飲み物を買っている若者の姿があった。
「いよっ、お疲れ」
彼はイエローキャノンこと三島勇太、恵子の仲間である。
「寒かったろ。一本いらんか?」
ホットドリンクのコーナーを指差し、勇太は笑いかける。
「あ、ありがとう。じゃウーロン茶」
本当は先にトイレに行こうと思っていたのだが、せっかくの好意を断るのも悪い。恵子はベンチに腰掛けて缶を受け取った。
「あちち‥‥」
寒い外から帰って来た所に暖かい飲み物はありがたいが、これは熱すぎる。冷ましながらゆっくり飲む事になった。
「敵に動きは無いみたいね」
「ん、よかった。ゴーグレンも冬場ぐらいお休みして欲しいもんだな。俺らも寒い思いしないで済むし」
「本当、ちょっとのんびりしたい」
茶をすすりながらこんな事を話し、少々リラックスした二人。だが彼らの安息は束の間のものでしかなかった。
「オーガビースト出現、すぐに来てくれ!」
ちょうど恵子の缶が空になった時、交代でパトロールに出たリーダー、天城哲也から通信が入った。
「おっと、おいでなすった。行くぜ」
「あ、うん‥‥‥」
ちょっと心残りな恵子だったが、市民の安全が第一である。急げファシズマン、出動だ!
平和な町に突如現れ、戦闘員を引き連れて恐れおののく人々を狩り立てる異形の怪人。
「どうした人間ども、しっかり走れ。でないと‥‥」
逃げ惑う者達へ向け、怪人は腕を振りかざす。人々の周囲をきらきらと輝く白い粒子が吹き抜けたかと思うと、彼らは彫像のように凍結し、倒れこんで砕け散った。
「おやおや、何と脆い事か。もう少し長く苦しんで、このブリザードゴールを楽しませてくれまいかね」
ふうとため息をつき、怪人はナルシスティックに悩むような仕草をする。このまま街はオーガビーストに蹂躙されるのか。
と、その時。御国の危機を救うため、はせ参じたる若き三人。
「そこまでだ鬼畜ども!」
「罪も無い人々を傷つけるなんて」
「俺達が許さねぇ!」
ブリザードゴールを真っ向から見据えて構えを取り、声をそろえて3人は叫ぶ。
「七生転身!」
ブレスレットのスイッチが押された刹那、幾千もの光り輝く繊維が彼等を包み込み、戦闘服と化した。耐弾防刃断熱吸衝人体強化国防服、ファシズスーツである。
「レッドバルカン!」
「ブルーランチャー!」
「イエローキャノン!」
各々、気力を高めて潜在能力を引き出すポーズを決める。しかし恵子は気力が高まるどころか後悔感がこみ上げてきた。正直ポーズを取るのも辛い。足を閉じて膝をもじつかせたい所だ。いや、それ以前に今すぐトイレに駆け込みたい。
「滅私奉公、鉄血戦隊‥‥」
続く哲也の声が彼女の意識を引き戻した。3人の呼吸を乱すわけにはいかない。自分が欠けるなんてもってのほかだ。改めてポーズを取り、声を合わせる。
「ファシズマン!」
「来たねファシズマン。丁度いい、人間どもが二度と我等に逆らう気を起こさぬよう、君達に死んでもらいたい」
怪人の合図で戦闘員たちが一斉に3人に襲いかかり、格闘戦が始まった。哲也も勇太も鋭い動きで戦闘員をバッタバッタとなぎ倒す。だが恵子は動きが悪く、かなりてこずっていた。無理もない、尿意を気にしながらでは集中力も落ちるし力も入らない。しかもそのために戦いが長引き、状況が悪化していく。
「あっ!」
普段の彼女なら考えられない事だが、恵子は戦闘員の腹部への一撃をもろに受けてしまった。スーツの防護効果で打撃はかなり減殺されたが、別のダメージが大きい。思わずうずくまってしまいそうになった恵子だが、そうしたら一気に力が抜けて、悲惨な結果を招いてしまうだろう。
「うう‥‥‥このおっ!」
悲劇を回避する方法はただ一つ、一刻も早く戦闘を終わらせるしかない。緩みそうになった出口を何とか締め直し、戦闘員を投げ飛ばしにかかった。いつもならタイミングを計って鮮やかに相手を宙に舞わせる所だがその余裕も無く、一息つきたい一心で強引に掴みかかる。手足にかかる負荷が普段の数倍にも感じられ、このまま漏らしてしまうのではとヒヤヒヤした。敵にも自分にも、一瞬の隙も見せられない。
スーツの力もあって奇麗にとは言えないが投げは決まった。この投げだけでもかなりの気力を消耗した彼女だが、まだ2人、3人と向かってくる。涙が出そうだ。
「とう!」
いろんな意味のピンチに、哲也がカバーに入ってくれた。
「どうした恵子、大丈夫か」
大丈夫なはずが無いが、聞かれて恵子は反射的に答える。
「ええ、平気よ」
大体戦闘中に「トイレに行かせてくれ」とも頼めなかった。戦闘員もみな片付き、残るはブリザードゴール1人だ。耐えるしかない。
「なるほど、流石にやるね。しかしこれならどうかな?」
戦闘員がやられたのを見て怪人は、街の人々を凍結させた白い粒子を3人に浴びせかけた。
「ぐおっ」
「ひゃあっ」
「さ、寒い‥‥」
断熱効果があるとはいえかなりの体温を奪われる。
(ああ、よりによって今日の相手がこんな‥‥)
「ほう、内部まで凍結しないとはな。ならばこのまま氷漬けにしてくれるわ!」
粒子の噴射量が一気に増し、3人の体は厚い氷に覆われる。それを見て怪人は、勝ち誇ったように目元を歪めた。
しかし、これで敗れ去るファシズマンではなかった。
「ぬうう‥‥ふん!」
哲也は気合と共に全身に力をこめ、内部から氷を砕き割ったのだ。
「な、何と!」
「こんなもので、俺たちの燃える思いを消せるものか!」
続いて勇太が氷を粉砕する。
「てめぇらの企みもこれまでだ!」
そして恵子が‥‥‥一瞬ためらった。
(どうしよう、今力を入れたら‥‥)
冷気を受けて更に尿意が高まり、限界が近付いているのである。しかしこのままでは時間の問題だ。もっと体温を奪われて取り返しのつかない事になる前に、彼女は意を決して手足に力を込めた。形勢が逆転しつつある事を心の拠り所に。
「んっ!」
どうにか脱出できたが、出口に熱い、しみ出してしまいそうな感覚を受けてギクリとしてしまう。
氷から抜け出しても震えが止まらず、膝頭をこすり合わせて尿意と戦う彼女をよそに、哲也は力強く叫ぶ。
「いくぞ、鉄十字バルカン!」
リーダーの声に合わせて、大きなバズーカ型の武器が転送されてきた。
鉄十字バルカン:大口径の機銃弾を連射する必殺の速射砲で、装甲トラックを3秒でスクラップに変える威力を持つ。その凄まじい反動は、3人で足を踏ん張って補正するのである。
これが最後だ、オーガビーストを倒せばトイレに行けるんだと自分を励まし、恵子は砲に寄り添って震える膝を開いた。
「ターゲットロック、発射!」
我慢するのにふさわしくない体勢で反動にも尿意にも耐えねばならない彼女に、更に追い討ちがかかった。強い反動だけでなく、このタイプの火器は振動を伴うのだ。
「くう‥‥‥」
伝わってきた震動が彼女の体内の液体を揺るがし、膀胱を刺激する。震動が閉じた尿道を突き崩そうとしているようにも感じられた。
「がぎゃあぁぁぁぁっ!」
数十発の鋼弾を撃ち込まれ、怪人は蜂の巣と化して吹き飛んだ。
(ああ、やっと‥‥)
あと少し、もう少しという希望に支えられ、彼女はこの危機を乗り切る事が出来た。ところが――何という生命力か、怪人は肉塊に等しいその身を引きずり起こした。
「おのれファシズマン、かくなる上は貴様等も‥‥‥道連れにしてくれる!」
うめくように呪いの言葉を吐き、怪人は見る見る巨大な姿へと変化していく。
恵子は愕然とした。オーガビーストが巨大化能力を持っていた事よりも、すぐにトイレに行けるという希望を打ち砕かれた事に。
(そんな、もう‥‥駄目‥‥)
トイレに行っておかなかった事、あまつさえその状態で茶など飲んだ事、後悔が頭の中を駆け巡った。
「みんな諦めるな。三国軍神、発進!」
いささか的外れだったが、哲也の激励は精神的なショックでへたり込みそうになった恵子の気力を取り戻させた。トイレの我慢というのは少々情けないが、最後まで希望を捨てないのが世界の命運を背負う戦士の条件だ。
こんな事もあろうかと開発されていた戦闘メカ、三国軍神のコクピットに3人はテレポートする。巨大オーガビーストとロボットの一騎打ちが始まった。
恵子の担当はセンサー系統のチェックで、今回はやる事が少ないのが救いだった。シートに座った彼女は、片手で操作を行い、もう片方はスカート部分の上から股間を押さえつける事にした。しかし、楽になったわけではない。パイロットや内部のコンピュータを保護するため、三国軍神は一度に衝撃を受けずにゆっくり吸収する構造になっており、その分かなり揺れるのである。出口を押さえる手に冷や汗がにじんできた。もう勝っても基地までたどり着けるかどうか、怪しい。
彼女の苦しみをよそに、戦況は優勢だった。
「とどめだ、特攻剣レフトスレイヤー!」
「え!?」
特攻剣レフトスレイヤー:ブースター全開の超高速で踏み込み、すれ違いざまに斬りつける三国軍神最大の必殺技である。踏み込みの際の加速度は軽く15Gを超える。
恵子は血の気が引いた。普通の人間なら絶命する加速度である。スーツで強化された肉体だから失神する事もないが、確実に失禁してしまうだろう。
「お願い、待って、レフトスレイヤーは‥‥」
間の悪い事にちょうどオーガビーストの咆哮が、か細い彼女の哀願の声をかき消してしまった。痛いほど切迫している彼女の膀胱を、15Gが襲う。
(はうぅっ‥‥くく‥‥)
とっさにもう片方の手も出口を押さえ、最後の気力で崩壊を食い止めようとするが力及ばず、少量の尿が下着に染み出した。この程度で済んだのは大した精神力と言えたが―――
三国軍神は見事、特攻剣でブリザードゴールを一刀両断にし、急ブレーキをかけて停止した。当然パイロットは前方に投げ出される形になり、それを支えるシートベルトが下腹部に食い込む。これが最後のとどめになった。
(あくっ!あ、ああ‥‥あ‥‥‥)
限界に達したところに立て続けにショックを受け、疲弊しきった彼女の括約筋はとうとう内圧に屈した。彼女の意志を裏切って水門は開かれ、熱い液体が一気に噴出する。スーツの内側に水流が跳ね返り、小さな音を立てた。
(駄目、止めなきゃ、止めなきゃ‥‥‥)
恵子は慌てて割れ目を締め直そうとした。スーツは水を通しにくいので、少量ならばれずに済む。しかし、我慢の限界まで溜め続けてから堰を切ってしまった小水の勢いは止まるものではない。必死に理性が呼びかけても、疲れきった尿道は圧倒的な開放感に押し流されるばかりだった。スーツを染み透り、スカート部分を汚していくのをどうする事も出来ない。
内股を強く閉じ合わせた姿勢のまま、うつむいてシートに液体が広がるのを見つめ、恵子は屈辱感に肩を震わせた。
「任務完了‥‥‥ん?」
「あれ、恵子?」
狭いコクピットに立ち込めた尿臭と、シートから滴り落ちる水音で、哲也と勇太も異変に気付いた。
「我慢‥‥してたのか。すまない」
「えーと‥‥勝ったぞ恵子、よくやったな!」
2人は気遣いのつもりで言ったのだが、これは救いがたい失態を見せてしまった事を彼女に再認識させる物でしかなかった。一層惨めな気持ちになって、流すまいと思っていた涙が溢れてきた。
(‥‥‥ゴーグレン、絶対に許さない!)
羞恥心は恨みに変わり、恵子は鬼畜達と戦う決意を更に強めたのだった。
戦いは終わった。しかしゴーグレンは侵略を諦めたわけではない。故郷の星を守るため、ゆけ鉄血戦隊!戦えファシズマン!
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