官能小説の秘密その1:

「やあ、全国のチビッコの諸君、いい子にしていたかな?」
「そう、今日からみんなのお相手をすることになったきれいなおねーさんこと水野カヲリよ。みんなよろちくね。」
「わしは、この道なんと50年、屈伏学の権威、桝田部刻蔵博士じゃ。わしのことは屈伏博士とよんでくれたらいいぞ。」
「なし崩し的にこんなコーナー始めることになっちゃったけど、あんたマンサクとは違うよね。」
「あんなバカといっしょにしてもらったら困るぞ。奴は奴で快楽持論とか展開していたらしいが、ネタに詰まってきたため逃亡したらしい。あんな素人が語るのではなく、わしのような専門家が語ってこそ、屈伏は美学となるのだ。」
「なんか、意味不明にすごいわね。それで今日が初めてだけど、なにからする?」
「そうだな。官能小説世界の構造についてでも語ろうか?」
「なにそれ。よくわかんないわよ。」
「うむ、つまりじゃな。官能小説は大きく分けて3つのパートに分かれると思うんじゃ。ひとつめは、魅惑のヒロイン登場から悪漢の手に落ちるまで。」
「さりげなくヒロインの美しさをにじませた人物描写をしたりするところね。」
「そのとおり。あくまでさりげなくが大事じゃぞ。たまに「誰それ似の美女」と具体的な女優名を挙げている小説もあるが、その場合対象を絞ってしまうからな。読者の想像を膨らませつつ、ポイントを押さえた描写が大切じゃ。ひどいのになるとその当時の大女優が今ではただのババアだったりして萎え萎えじゃったりする。」
「たしかに中村○緒似の美女って今言われてもねえ。」
「それからあんまり具体的すぎる稚拙な描写も避けたほうがいいぞ。『すごい美人』とかな。」
「でもマンサクも『モデルのような美女』という陳腐な表現を雌豹で使ってたじゃない。しかも2回も。これってまずいんじゃない?」
「理論と実践は違うというか、ここらが奴の限界なんじゃろう。」
「ほっとくしかないのね。」
「それから職業もこのパートで紹介されるんだ。女教師であったり、スチュワーデスだったり人妻だったり....」
「ちょっと、人妻って職業なの?」
「もちろん人妻は官能小説のヒロインを代表する無敵のステータスシンボルじゃ。
スッチー兼人妻とか兼務している場合もあるが、ただの人妻ってのもそそるものがあるね。」
「ふーん、そんなもんなの。私も結婚しているからそそられるのかしら?」
「何!カヲリ君も人妻なのか!?」
「な、なによ突然!やっぱり人妻っていうだけで男を野獣のように変えるのね。」
「ふふふ、その通り。他人のもので手が届かない存在じゃから、暴力で汚したいと思うもんだよ。」
「あんただけじゃないの?」
「それから、このパートでは当然ストーリの背景が語られてるのも重要なんだ。ヒロインがどう悪魔の姦計にはめられていくかとか。」
「でも、あんまりここらをダラダラ書いてると読み飛ばされちゃうわよ。」
「そうじゃな。一般の小説と違ってプロットを厳密に楽しむわけではないからな。
読み飛ばす人間が出てくるのは仕方ないことだ。ただファンタジー系やSF系では何も読んでないとさっぱりわからなくなる可能性もあるため、ナポレオン文庫みたいにキーワードを太字で書いてるのは実にいさぎいい。」
「へー」
「でもここは官能小説のひとつの楽しみどころなので、ここを読まない手は無いだろう。実力を出しきれば負けること無い美女が卑劣な罠にかかり、ずるずると憎い敵の手の内に落ちてしまう。ゾクゾクしないかね、カヲリ君!」
「例えば、昔ひそかにSM経験したときの写真で脅されたり、夫の借金の代わりに己の肉体を要求されたりとかね。」
「うむ。臭作も写真をネタに女の子を脅すゲームだったな。でもオシッコしてる写真を撮っただけでいきなり肉奴隷になるのは納得できんかったぞ。」
「ゲームにはゲームの都合があるのよ。」
「やっぱりじっくりと罠を仕掛ける過程も楽しみたいね。ただ結城先生の小説だと獲物が一瞬で捕らえちゃうけど、これはこれでいいのだ。サービス精神だと思えば。」
「どのページめくっても責められてるもね。ヒロインは休まる暇もないわ。私なら1時間責められたら10分間くらいは休憩ほしいわね。それで時給10万円。」
「どこの世界に獲物に休憩や金を払う陵辱者がいるのかね!」
「あら、博士は私とじゃ、イヤ?」
「カヲリ君、30万円払おう」



2人して地下室にいき、3時間ほどして戻ってくる。


「ぜー、ぜー、さて次のパートじゃが、ここはいよいよメインイベント。捕らえられたヒロインが寄って集って責められて屈伏してしまうまでじゃ。」
「一番おいしいとこよね。あんたもよだれ、よだれ。」
「じゅるじゅるじゅる。そうだよ、この屈伏する瞬間。これこそ官能小説でもっとも大事な瞬間だ。これをどう書ききるかは極めて重要だよ。絶世の美女が眉根を寄せて耐えきれずにイク瞬間。せっかく苦労して捕まえた獲物があっさり屈伏してしまってはつまらんじゃろう。やっぱり少しはがんばってもらわないと。」
「ヒロインががんばっても、悪漢は喜んでよりむごい責めをするだけよね。最後は耐えきれない。」
「所詮縛られて身動きがとれない身体に一方的に責めが加えられるのだから勝負なんぞ最初からついておる。しかし気の強い彼女とすればむざむざ卑劣漢の前に屈することなど許されない。そのため無駄とは知りながらも必死で抵抗する悲壮感というか哀愁漂う姿がたまらないんだよね。」
「そこで徹底的に焦らされたりとか。」
「そう、焦らされまくったあげくに屈辱のセリフを吐かされ、精神的にも屈伏させられるのじゃ。気の強い女はこれくらいやられないと不公平だ。」
「また、わかんないことを。」

「いよいよ最後のパートは屈伏してから調教を受けたり、更なる過酷な責めのステージに登らされる部分。ここらへんも書き方によっては面白い。」
「団鬼六先生なんか、しつこく花稽古を書いてるわね。」
「そうじゃな。時代物は大抵。そこまで落ちちゃうと、ターゲットとしての興味は薄れちゃうけどねえ。プライドがずたずたに引き裂かれた女はどうも。」
「それを更に完膚なきまでに叩きのめしている小説もあるわね。」
「結城先生なんか延々と陵辱が続くもね。妊娠させられた挙句に中絶させられたりもうやりたい放題。作者もそうだけど読者もテンションを維持するのが大変だね。
まあ打開策として既に落とした獲物はおいといて、新たなるターゲットを登場させる手もあるな。それがミイラとりがミイラになる。」
「友達が監禁されているので助けにいって自分も監禁されちゃうとか、娘の代わりに身体を投げ出す人妻とか。」
「そうそう。でも、ターゲットが増えてくると、一人くらい処女って奴が混じってくるんだな、これが。逆に処女しか出ない小説ってのはロリ入ってるのを除けば少ないだろう。」
「なんでよ?処女ってある意味そそるじゃない。」
「うむ、ここら辺は人の好みになるじゃろうが、痛がる女を無理やりってのはそれはそれでいいんだけど、屈伏させるには弱すぎるんじゃな。最初から泣き喚いてたんじゃ、勝負にならん。やはりわしは女として成熟した肉体が必要だと思うぞ。」
「年増好き?」
「誰もそんなことはいっとらんわい!!」

「じゃ、みんな次はあるかどうかわかんないけど、そのときにまた。」
「そのときまでによーく復習して屈伏の腕を磨いていてくれ!それじゃね。」


戻る