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 序章 (3)

「嘘、そんな……」

 アルカは息を呑んだ。白いノドが音をたてた。

 秘園のすぐ手前まで進んだその触手の先端が、花が開くようにほころび始めた。中から現れたのは、無数の細い触手だった。その触手の塊は、アルカの秘裂のすぐ上で蠢いていた。そう、すぐ上で、だ。決してそこに触れようとはしなかった。

「やだ、どうして。んぅ、いやぁ、いじわるしないで」

 鼻を鳴らして身悶えたアルカは、自ら快楽を求めて、触手の塊に腰を突き出した。ところが触手は、アルカが腰と突き出した分だけ身を引いた。アルカと触手との距離は変わらない。すぐ目の前に欲しい物があるのに、それを与えられない焦燥感。アルカは何度も腰を揺するのだが、その度に触手はアルカから逃げていった。

 時折、触手から垂れ落ちる粘液がアルカの秘所を叩いたが、その程度の刺激など、満足するには物足りなさ過ぎるもので、かえって苛立ちを募らせた。

「お願い、お願いします……。もう、もう、私、駄目……」

 とうとうアルカは泣き出してしまった。

 しかし、それも無理のないことだった。アルカが焦らされていたのは、下半身だけではなかったのだから。そう。触手は、アルカの乳房に対しても徹底して焦らしをかけていた。

 細身の触手が、膨らみの麓から、円を描くようにして這い上がる。

 胸の谷間を、繊毛に覆われた触手が身を捩りながら何度も往復する。


 先端が平たい下のようになった触手が、乳輪を縁取るようにして舐め上げる。

 だがどの触手も、決して肝心の部分に触れようとしなかった。乳房を締め付けるように上ってきた触手も、指のように押し揉んでくる触手も、舌のように舐めてくる触手も、どれもこれも皆、乳首に到達しようかと言うところで急に方向を変えてしまうのだ。

 あまりの仕打ちにアルカが自ら手を伸ばそうとすると、別の触手がその手を絡め取ってしまい、今ではアルカの両手は顔の脇に固定されていた。せめてもの慰めに触手を手に握ろうとしても、手首を拘束されているのでそれさえもままならない有様だった。

「くぅ、っん、はぁっ、はぁっ……。早く、お願い、早くしてぇ」

 荒い息の中、涙ながらに懇願するアルカ。と、どこからかからかう声が響いた。

『お願いと言われても、何をお願いされているのか、ピンと来ないのだが』

「そ、それは……、あぁ、私、私、の……」

 情欲に身を焦がしてはいるものの、その欲求を口に出すことは、さすがにためらってしまう。しかし今は、ためらいと言う理性よりも、情欲という本能の方が勝っていた。

「私の、胸を、もっと……。それ、から……、その、あ、あの……、下の……」

 卑猥な単語を口にすることはなかったが、それでも必死に訴えかけてくるアルカに、声はさらに追い打ちをかけた。
『しかし何だな。君は救いを求める相手を間違えてはいないか?』

「え……?」

 思いもよらない言葉に、アルカは言葉を止めた。

『君は、女神ヘルナーデの神官戦士なのだろう? それなら、彼女にこそ祈るべきだ。今、君が懇願した相手は、その女神に最後まで刃向かった邪神なのだよ?』

「あっ……!」

 夢見心地の中から唐突に現実に引き戻され、アルカの動きは凍り付いた。しかし、固まってしまったからだも、無理矢理に覚醒された理性も、燃え盛るアルカの肉体を静めてはくれなかった。そればかりか、現実を見つめれば見つめるほどに羞恥が身を焦がし、炎はますます激しく燃え上がった。

「でも、でも、私……。あぁぁぁ……、いやぁ、許して、もう許して、お願い」

 激しく頭を振って泣きじゃくるアルカは、涙ながらに許しを請うた。その許しは、彼女の崇める神に求めた物なのか、あるいは……。

『いいとも。私はこれでも慈悲深いからな。私に許しを求めるなら、今すぐにでも君の望む物を与えよう。君は何を望む? 君にとっての許しとは何だ?』

 声に促されたアルカは、もはやためらうことはなかった。

「お願い、早く、早く入れて下さい。早く、……お願いします」
『では、望みを叶えてやろう。今は存分に快楽を味わうが良い。ヘルナーデには後で私から言っといてやるから、彼女のことは今は忘れてしまえ』

 舌のような触手が、アルカの乳首にむしゃぶりついた。

「ひぐっ!!」

 そこから走った快感に、全身を引きつらせるアルカ。その快感に酔う暇もなく、新たな、津波のように巨大な快感がアルカの身体を呑み込んでいった。

「はぁぁぁ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、っく、うぐぐぐぐぅ」

 意識が押し流されてしまうほどの快楽に翻弄されるアルカ。股間で様子を窺っていた太い触手が、一気にアルカの奥まで貫いたのだ。わずかに秘所を覆っていた下着を突き破り、ほころんだ秘裂をさらに大きく広げながら、瞬く間に子宮にまで達していた。

 充分すぎるほど潤った秘裂の中を、無数の細い触手の塊が出入りを繰り返した。前後に何度も往復しながら、その触手は、全身に大小のコブを生み始めた。

「あうぅぅっ、んっく、はっ、はっ、くはぁっ」

 コブが膣を引っ掻き、細い触手が子宮を抉るたびに、アルカの身体は激しく痙攣した。そして、その太い触手が回転したとき、人間ではあり得ない動きを見せたとき、アルカの意識は限界を超えた。

「いやっ、駄目っ、駄目ぇっ、っっっっくはぁっ」

 激しく身悶え、呻きながら、アルカの意識は白く染め上げられていった。

「っはぁ、っはぁ、……あぁ?」

 しばらくしてアルカが意識を取り戻したとき、アルカは自身の置かれた状況に気付き、悲鳴を上げた。触手はいまだにアルカの胎内に潜り込んでおり、激しい出入りを繰り返していた。

「かっ、はぁ、あっ、あっ、あっ」

 触手の動きに合わせてアルカの身体が揺れ、声が漏れる。その間隔が、どんどん短くなっていく。

「あぁ、駄目、許して、あ、あ、あっ、あぁあっ」

 再びアルカの意識は途切れた。

 昏睡と覚醒。それを何度も繰り返し、グッタリとなってしまったアルカの身体がゆっくりと下ろされ、ようやく触手から解放された。

 それはつまり、今まで指をくわえて見ているしかなかった老魔導師マガサの手に届くところに来た、ということでもあった。研究に没頭していたため女の肉体から離れて久しい老いた身体が、いつになく興奮にみなぎっていた。

「く、くくくくく」

 下卑た笑いを浮かべたマガサが、もはや身じろぎする余裕すらないアルカに近づいていったときだった。

「こらこら、人の物に手ぇ出そうとしてんじゃねぇよ」

 若い男の声がしたかと思うと、マガサの身体は蹴り飛ばされていた。

「な、なな、何だお前……は……」

 慌てて身を起こしたマガサは、相手に詰め寄ろうとしたところで動きを止めた。

 彼を見下ろしていたのは、マントを羽織った若い男だった。見るからに尊大な態度で、傲慢な目つきでマガサを見下ろしていた。

 マガサは、この地下迷宮の終点には自分と護衛の他には1人しかいないことを思い出していた。

「ありがたく思えよ人間、この俺様自らが、立ち上がってやるんだからな」

 邪神ミルガードの復活だった。


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