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  『暴虐都市』 (1)                                    久遠 真人作         

【1】王の支配し街

「納得できません! 断固、赤井 秀一を退学にするべきです!!」

静まり返った会議室に、凛としてそれでいて力強い声が響き渡った。
声の主は白鳥 摩耶(しらとり まや)。この春から東京からこの鳳王学園に赴任してきた27歳の教師である。
スラリとした長い四肢、それでいて女性としての魅力を感じさせる部分にはしっかりとボリュームのあるスタイル。サラサラの髪質をショートヘアで切りそろえ、キリッとしていてそれでいて理知的な顔立ちは、教師でなくモデルだと言われても誰もが納得するだろう。その美貌と意外にサバサバした性格の彼女は赴任以来、生徒に人気の教師である。

「いや、そう言われましても・・・・・・彼は赤井コンツェルの御曹司で・・・・・・」
「そんな事は、関係ありません!!」

ダンッとテーブルに手のひらを叩きつける摩耶は学園長の言葉をスッパリ切り捨てる。そんな摩耶の迫力に圧倒され、学園長はハンカチで必死に汗を拭ってばかりいる。いつもながらのこの展開に摩耶は苛立ちを隠せずにいた。そんな摩耶の様子に、同席している地元出身の同僚たちからは、やれやれまた始まった・・・・・・と露骨に迷惑そうな表情を浮かべている者も少なくなかった。


鳳王学園のあるこの地方都市。ここでは巨大な企業グループである赤井コンツェルが大きな影響力を持っていた。広大な工場やその関連施設が街の周辺に点在し、この街の雇用の1/3になんらかの形で赤井コンツェルンが関わっているという話だから、その影響力の大きさは容易に想像できた。そして、その赤井コンツェルンの御曹司がこの鳳王学園に通っているのであったが、その御曹司・・・赤井 秀一がどうしようもなく問題のある生徒であった。
父親の有する強大な影響力と金の力でやりたい放題を散々してきたのだろう、今では高校生にしてヤクザも道を譲るような存在となっていた。そして噂では、大きな事件を起こしては、すぐさま父親が事件をもみ消しているらしい。事実、警察やマスコミは彼やその仲間たちの派手な行動に対して見て見ぬふりをしているようだった。
だが、東京から赴任したばかりでそういう事情に疎かった摩耶は、女生徒に暴行をはたらこうとしていた赤井とその仲間に対して鉄槌を振り下ろした。仮に事前に事情を知っていたとしても、曲がったことが許せない性格の彼女には、他の大人たちのように見て見ぬふりなど、到底できるものではなかっただろう。
その美貌と裏腹に、幼少頃から空手道場に通い、学生時代は全国大会のでている猛者であた。今も暇をみては鍛錬を欠かさない摩耶であったから、たいして身体を鍛えてない不良どもを捻じ伏せるのは容易な事であった。
だが、それ以来・・・赤井とその仲間たちは、摩耶を目の敵にするようになった。夜道を襲われた事や、イタズラ電話や卑猥な郵便物を送りつけられる等・・・嫌がらせうけた事も頻繁に起きた。だが、そのいずれも、摩耶は軽くあしらっていた。だが、昨夜・・・マンションで就寝中に、彼らは鍵のかかっていたはずの玄関から忍び込み、寝込みを襲い掛かってきた。幸い襲い掛かる寸前で気が付き、ベットの上から跳ね起きた摩耶は必死で抵抗する事ができた。そして、その騒動に気が付いた近所の通報で駆けつけ警察官によって、彼らが逮捕される事で事無きを得た。だが、彼らの遺留品の中に、スタンガンや手錠、ガムテープやロープなどがあった事で、もやは不良学生のおいたと笑っていられなくなっていた。あと少しでも気が付くのが遅れていたら・・・・・・考えるだけ背筋が寒くなる摩耶であった。
噂では赤井とその仲間たちは、気に入った女性を見かけると、拉致してSM行為を行って楽しんでいる・・・・・・そんな噂話を聴いた事があった。。

「・・・・・・と言う訳で、彼らは停学1ヶ月とします。」

だが、学園長が下した決定は、摩耶には軽すぎると思うしか思えない内容だった。
その決定を聞くと、同僚たちはホッとしたようにそそくさと会議室を出て行った。
そして会議後に、警察に問い合わせた麻耶は、昨夜の事件が無かった事にされたのを知って愕然とするのであった。


「そう・・・・・・何でも思いのままなのね・・・・・・・・・でも、そのルールがこの街の外にも通用するとは思わないことね」

受話器を置き、俯きながら静かに・・・それでいて怒りに振るわせた摩耶であったが、その言葉を聴いたものは誰もいなかった・・・・・・




その夜、摩耶は学園近くのホテルから東京の出版社に勤めている妹の美幸(みゆき)に連絡していた。
マンションは昨夜の事件もあり、とても安心して眠れそうもなかった。明日には大家さんが玄関の鍵を新しいものと交換してくれるという話だったが、そもそも赤井らはどうやって玄関の鍵を開けて侵入できたのかを考えると、鍵の交換だけでは正直、不安だった。

「・・・・・・という訳なの。個人が好き勝手しているなんてオカシイでしょ?」

これまでの経緯や昨夜の事件を妹に伝えると共に、摩耶はこの街に対して再び憤りを感じ始めていた。

「ホント、信じられないわ。まかせておいて! 絶対、この事を記事にして次の週刊誌に載せてやるんだから!!」

そんな摩耶の感情に共感するように美幸も声を荒らげる。

「でも・・・・・・お姉ちゃん、大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ。今夜はホテルに移ったし、2・3日でマンションの鍵を変えてもらうしね。それ・・に・・・・あんな奴等、何度でも返り討ちにしてやるわよ!」

心配してくれる美幸に対して、摩耶は息巻いてみせる。
そして、来週早々にでも詳しい打ち合わせ兼取材をする約束をしてその夜の話を終えた。




だが、摩耶はまだ気が付いていなかった・・・・・・


・・・・・・彼の力がどんなものか・・・・・・


・・・・・・この街がどんな街かを・・・・・・

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