【1】始まり
「じゃぁ、行ってくるわね」
「うん、行ってらっしゃい、義母さん」
ご近所のお友達と2泊3日の旅行に出かける義母さんを玄関先で見送ると、僕は玄関に鍵を掛けた。
「これでよしっと」
他の戸締りも確認すると、そそくさと2階の自分の部屋へと駆け上がった。
ベッドの上に放り上げていた学生鞄を開けると、奥に隠すように仕舞いこんだアレを探した。
「へへへっ・・・」
鞄から取り出し僕の手の上に乗っているソレは友人から借りたDVDであった。
市販のDVDにマジックでアルファベットと番号が殴り書きされたそれは、正規の製品でなく、いわゆる無修正と言われるアンダーグラウンドな製品だった。
同じ趣味を持つパソコンオタクな友人が、週末にわざわざ遠出して入手してきたらしい。
「今回のヤツは濃厚だぞ。俺はもう10回は観ちまった!」
そう言ってヤラシイ笑みを浮べてどんなに良いか力説する友人の顔を思い出し、逸る気持ち押さえつつ、プレイヤーにDVDをセットすると再生ボタンを押した。
父親が再婚したのは3年前、僕が中学一年の時だった。
僕の本当の母親はもともと病弱で僕を産む時に無理をしたらしい・・・僕を産んでしばらくして亡くなった。それ以来、父親は僕を溺愛した。望むモノはなんでも買ってくれた。男で一つで不器用ながらも必死に僕を育ててくれた。
そんな父親が彼女・・・香織(かおり)さんを連れてきたのは、桜が咲き乱れる春であった。降りそそぐ桜の花びらの中佇む香織さんの姿は、今でも脳裏に焼きついている。当時、24歳だった香織さんを見て、僕はその美貌にドギマキしてまともに顔を見る事が出来なかった。
その後、なにも言えずただ一緒に食事をするだけで精一杯だった僕だったけど、彼女は優しくまるで姉のように接してくれた。そんな香織さんに僕はすぐ懐くと共に、彼女は僕の憧れの対象となっていった。
それから彼女は時間さえあれば僕の家に遊びに来ては、得意の手料理を作ってくれ、時には勉強も見てくれるようになった。
そんな彼女と過ごす時間は日増しに増え、その間、彼女は僕には経験する事ができなかった母の温もりと、姉のような優しさを与えてくれた。
そんな彼女だけど過去の事だけはあまり話したがらなかった。僕が聞くと寂しそうな笑みを浮べるだけだった。
だけど時間が経つにつれ、彼女は徐々に僕にだけ過去の事を話してくれるようになった。
両親は幼い頃に他界しており、天涯孤独の身であること・・・
彼女は1年前まで東京で一流企業のOLをしていたこと・・・
年上の恋人に騙されて、全てを捨てて3ヶ月前にこの田舎に引っ越して来たこと・・・
そんな傷心の彼女を、僕の父親が親身になって世話をしてくれたこと・・・
もしかしたら、彼女も僕と同じく家族の温もりに飢えていたのかも知れない。
僕と彼女は、それまでの寂しさを取り戻すかの様に、まるで本当の肉親のように接した。
だが・・・そんな関係も、それから1年ほどして父親から二回り近く年の離れた香織さんと結婚すると聞いた時に終わった。
もう中学生にもなれば、いろいろな性的知識もついており、同級生たちからもいろんな性に関する情報を交換するような年頃であった。
それ故に、両親の結婚初夜に階下の寝室で何が行なわれるのかも想像が付いた。
僕は両親の寝室のドアの前で佇み、ドア越しに聴こえる僕の知らない香織さんの女の声を聞き・・・
・・・僕は悔しくて涙した。
僕の姉さんのような『香織さん』はいなくなってしまった・・・
・・・そう僕は思うことにした。
それ以来、僕は彼女を『義母さん』と呼んでいた。
だが、そのDVDを見て、その考えを改めた・・・
【2】明かされる過去
「お帰りなさい!」
「あら、ただいま。起きて待っていてくれたの?」
香織さんが帰って来たのは、2日後の夜も遅い深夜近くであった。
「あら、お父さんは?」
「お父さんなら、仕事で泊り込みだって、さっき電話があったよ。またソフトの追い込みに入っているみたいだから、2、3日は帰れないかも知れないって」
父親は小さなソフト会社を経営していた。だから、ソフトのマスターアップ時期になるといつも会社に缶詰状態になり自宅には帰れない日々が続いた。
「じゃぁ、お夕飯はまだでしょう?なにか直ぐに作るからね」
「あ、その前に香織さんに見てもらいたいモノがあるんだけど」
荷物の片付けも放り出し、エプロンを片手に台所に行こうとする香澄さんを僕は呼び止めた。
「あら、何かしら?」
「うーん、内緒だよ。でも香織さんをビックリさせれるモノかもね」
「へぇ、楽しみだわ」
「じゃぁ、目を瞑って付いてきて」
ニコニコ笑う僕は香織さんは素直にその場で目を瞑る。僕は、彼女の手を引きビングへと連れて行く。
リビングには壁一面の大型ハイビジョンテレビと豪華な音響セットが備わっている。オーディオは父親の唯一の趣味で、その為にこの家を建てる時にはさんざん防音にこだわったと自慢するぐらいであった。
テレビの正面に用意していた大きな革張りのマッサージチェアに香織さんを座らせた。
「ちょっと手を貸してね」
香織さんの細い手首を掴むと、背もたれの後ろに伸ばす様に誘導する。
「ねぇ、もう目を開けてもいい?」
「もうちょっとだけ、待ってね」
ガチャリッ
「・・・え?」
僕は後ろにまわされた香織さんの手首に手錠をかけると、背もたれのフックに手錠の鎖を引っ掛けた。
「え?なっ、なに?これはどうしたの?」
「安心して、見せたいものはこっちだから・・・」
突然の事に、困惑した顔を僕に向ける香織さんに僕はニッコリと微笑むと、室内の照明を落とし、オーディオのリモコンを手にした。
・・・ピッ!
僕が電源を入れると、テレビの大画面にそれは映し出された。
「ヒッ、アッン、アァァン! イクッ、イクッツ、またイっちゃうぅぅぅ!!」
「ヒヒヒッ、またイクのか?もう何回目だ?」
「わ、わからないですぅぅ」
「アナルの味もしっかり覚えたようだなぁ、いやらしく腰を振ってやがる」
「もう10人以上も相手しているもんなぁ、いっぱい気持ち良い事して貰えて嬉しいだろう?」
画面には大勢の男たちに囲まれ、後手に縛られた女性が腹ばいになった男の上に跨らされ、縄で搾り出された乳房を男の胸板に擦り付けるように上体を倒している。そしてその上から高々と突き出された女性の尻を抱えるようにもう一人の男に乗られ、男たちにサンドイッチのように挟まれ快楽に身悶えしている画像だった
彼女の周りに纏わり付いている男たちはまともな商売でないのは背中の刺青で一目瞭然だった。
既に、長い間責め続けられているのであろう、その全身は汗や唾液で満遍なく濡れ、撮影用の強い照明の光に照らされキラキラと光っていた。
彼らの周りには、洗面器や浣腸器、大小さまざまな淫具が転がっていた。
「おらぁ、聞いているだろう?!ちゃんと答えろ!!」
周りで休憩していた男たちの一人が手を伸ばし、その女性の髪を荒々しく鷲づかみし俯いた顔を持ち上げると、もう片方の手で顎を掴みカメラの方に女性の顔を向けさせた。
「は、はいぃ、香織ぃ、いっぱい相手してもらえて嬉しいですぅぅ!」
その顔は桜の下で出会った頃の香織さんであった。
だが、そこに浮かぶのは、被虐の快楽に浸かり歓喜に身を打ち振るわせるマゾの表情だった。
【3】巻き戻し
「止めて、もう止めてぇぇぇ!!」
香織さんはギュッと目を瞑り頭を振り絶叫する。本当は耳も塞ぎたいのだろう。後手に固定された手錠の鎖がガチャガチャと激しく音を立てる。
「どうして・・・画面の香織さん、とってもイイ顔をしているよ?見てごらんよ?」
僕は背後から香織さんの両肩に手を置くと、そっと耳元で囁いた。
「嫌なのぉ!、嫌なのぉ!! お願いだから消して!!」
涙を流しながら駄々っ子のように首を振る、その度に、涙がキラキラと宙を舞った。
「ふーん、本当に嫌なの?・・・それが本当か、ちょっと調べてみようか」
「・・・えっ?!」
僕が耳元で囁くと、ビックリしたように香織さんは体を止めた。そして、恐る恐る目を開けると、肩の上にある僕の顔を見つめた。
僕はその時、どんな顔をしていたのだろう? 僕の顔を見た香織さんは目を見開き、そして涙目でブルブルと振るえ始めた。
「いや・・・いや・・・ゆるして・・・許してください・・・もう・・・あの自分に・・・戻りたくないの・・・」
彼女は見下ろす僕の視線から目を逸らす事すら出来ず、消え入るような声で必死に繰り返す。
その怯える彼女の姿に、僕は心の中でどす黒い何かが広がっていくのを感じた。
そして、それと共に身震いするほどの快感が僕を襲っていた。
「あはははは、可愛いよ、香織さん・・・ほんと・・・虐めたいほどにね」
震える香織さんの頬を両手で包むように掴むと、彼女の顎を持ち上げ、ユックリと唇を奪った。
「あ・・・あ、あ、あ、あ・・・」
香織さんは抗いもせず、身動もできず、僕に唇を貪られ続けた。
僕は歯茎に舌を這わせ・・・
綺麗な歯を抉じ開け・・・
彼女の舌に僕の舌を絡ませ、時には吸出し・・・
僕の唾液を彼女の口内に流し込んだ・・・
僕は彼女の打ち震える口内を舌で蹂躙し続けた。
そのたびに、彼女は肩をブルブルと震わせ、肌は徐々に朱色に染まりはじめ、次第に息を荒くしていった。
「くっ、はぁぁぁぁぁぁぁん」
それまで必死に耐えていた彼女の口から熱い吐息と共に、ついに嬌声が溢れでると、涙で潤んだ瞳から涙がツーッと頬を垂れた。
僕はそれをそっと拭ってあげると、彼女の耳元に口を近づけ、フッと熱い吐息を吹きかけ、そっと耳元で囁いた。
「さぁ、3年前のやり直しをするよ。今度こそ香織を僕のモノにするからね」
その横の画面では、男たちの調教によって心身にマゾの快楽を刻み込まれた香織が、縛られた体を撃ち震わせて何度も何度も泣き叫びながら絶頂し続けていた。
その画面と同じ目で僕を見上げる彼女・・・
そのマゾの光に染まった瞳には僕の顔が映っていた・・・
・・・その顔は・・・
女を支配するサドの冷たい目をしていた。
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