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    Prologue

●曲形動物 Kamptozoa
 曲形動物(曲虫類)は例外なく付着生活をしており、一見ヒドロポリプあるいはコケムシ類と似た形をもち、単立性のものと群体をつくるものとの両者がある。……(略)……体は触手冠をもった盃状あるいは卵形の左右相称型の萼部(本体部)と、それを支え、また他物に付着するための細い柄部との2部分よりなる。体腔はいわゆる偽体腔であるが、それは間充織によって埋められており、その中に種々の器官が存在している。体の主要な内部器官はすべて萼部中に含まれている。体の腹面に相当する萼部の上面縁を取りまいて触手の1環列があり、その触手環の内側に口・肛門、および腎管・生殖器の開口が存在している……
――内田亨(監修)『動物系統分類学 第2巻』中山書店、1961年



   Prologue

 にゅる…ペチャ…ぬろん……
 ズニュリ…ずぬにゅ…ヌブ…ぬぷ…ヌブ……

「ふあッ…あッ…あああああンッ!」

 密閉された室内に、女の声が響き渡った。
 熱く湿った吐息。間欠的な喘鳴。嫋々たる咽び泣き。
 それらは……女の中枢にインプットされた、「自白」の典型例だった。秘めやかな蜜園を嬲られ、尖った肉芽を弄られたとき、つい口にしてしまう叫び。
 蕩けきった女声の後に、

『うふふふ……どうかしら? たまらないでしょう?』

 機械補正のかかった声が続いた。
 女性のものとおぼしきそれは、恐らくスピーカーを通したものであろう。相手を蔑んでいるような、それでいて憐れんでもいるような、なんとも意地悪な響きがある。

『経験したことないでしょう、こんな快感は。うふふふ……人間の男相手じゃ、絶対に味わえない刺激だものね』

 魔性の呼びかけ。相手の「精神[こころ]」にではなく、「肉体[からだ]」に同意を求めているよう。
 忍び泣いている女は、それに対し首を振って答えた――いかにも弱々しい否定であったが。

『あらあら、“玲子さん”たら、まだウソをつく気なの?……自分の素性をごまかすだけじゃなく、本心まで偽ろうというのかしら?』

 スピーカーの女声が笑う。
 と、その嘲笑が指令であったかのように――

 「人間の男ではない」

 そう形容された何者かが、蠢き始めた。部屋には裸女の他に、別の存在物も居た(あった?)のである。
 それはノタノタ、と「玲子」に向かって這い寄った。粘液の滴る音。

「……い、いやあ…や、やめてぇ……」

 玲子は、舌たらずに拒絶を叫んだ。まだ痺れの抜けていない四肢を動かし、遠くに逃げようと試みる。
 しかし。
 何者かは彼女の足にからみつき、捉えた獲物[れいこ]を己のほうへ引き寄せた。

 ズ…ズズ…ズルルル……。

「……ああッ、いやあッ!」

『うふふふ、可哀そうな諜報員[スパイ]さん……でも、大丈夫よ。あなたもすぐ……虜になるから』

 スピーカーが、限りなく淫蕩な声を伝えてきた。

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