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  「西へ」 −バーシア アナザーエンド−             場面6

■ フェルナンデス  3月10日 18:30 安宿(化粧部屋)


【[主人公]】「入るぞ」

ガチャリと扉を開け、部屋の中に入ると、仄かに甘い香水の香りがプンと漂ってきた。
その部屋の奥…鏡に立ち向かうように、バーシアが無言で座っていた。

【[主人公]】「……」

バーシアの姿を見て、かけようとした声を、思わず飲み込んでしまうくらいの、触れたら壊れそうな張り詰めた美貌がそこにはあった。
整然と済まして、化粧を施しているバーシア。
背筋がすっと伸びた凛とした姿態。
「君は元がいいんだから…」以前そう言った記憶はまだ残っているが、皮肉にもこんなときに、再確認させられるなんて…
やや濃い目の化粧や、薄手のネグリジェのような服装は、全てこれから来るあの客のオーダーによるものだ。

【[主人公]】「あの、クソ野郎のためにか…」

今日来る客が、どんな客か、オレもバーシアもイヤというほど知り抜いている。
知っているのに、何もできないというのか…
あの男に抱かれるためだけに化粧を施し、その汚らしい腕で脱がされるためだけにドレスアップを淡々と続けるバーシア。
全裸となったバーシアは、客の前に、その過敏とも言える弱点をあられもなく曝したままとなる。
ただでさえ開発されきった身体を、獣同然の荒々しさで弄ばれれば、後は身をよじって喘ぐしかないのだ。
彼女の心境はいかばかりか…その氷のような表情からは、うかがい知ることはできない。いや、そんなことは聞かなくても分かっているはずだ!

【[主人公]】「クソ!」

普段なら決して手にとらないようなクリアルージュの紅を口に差していく。
これも、あの男の注文なのだ。
口でくわえさせる時には、いつも決まってこうだから。
しかも、執拗なフェラチオの後は、涎と粘液で跡形もなく、グズグズに崩されるのだ。

そんなバーシアを見ているだけで、オレには何もできないというのか?
しかし、だからどうしろと言うのだ!? 
頑張れとバーシアに声をかけろとでも言うのか?
ふざけるんじゃない。
そんなことなど、できるものか!

ガチャ…

その時、戸口で物音がしたようだった。
どうやら例の「お客様」のお出ましのようだ。
その音を聞いた瞬間、バーシアの表情が少し変わったように見えたが、すぐまた元の無表情に戻る。

【[主人公]】「…すまん、行って来る…」

結局バーシアには、言葉らしい言葉も掛けられずに、その客の応対をするために、その場を後にしようとした、その時だった。

【[バーシア]】「待って…」

オレが振り向いた時には、バーシアはこちらを見上げるように、静かに見ていた。

【[主人公]】「な、なんだ…何か欲しいものでもあるのか?」

くっ…我ながら、もっと気のきいた言葉の一つくらい掛けてやれないのか…
しかし、バーシアは、そんなオレの様子にフッと軽く笑うと、しっかりとした声で語りかけてきた。

【[バーシア]】「ワタシのことは、気にしなくていいから……大丈夫」
【[主人公]】「そ、そうか…」

随分コイツには、無理をさせているな、と思ったが、ここで「すまん」と謝ると、お互い惨めになりそうで、それだけはぐっとこらえる。

【[主人公]】「じゃ、あんまり待たせると、うるさいから…」

このままバーシアを見詰め合っていると、どうにかなりそうで、振り切るようにその場を立ち去った。
しかし、そんなオレの振る舞いを冷たいとも思わないのだろうか、背後からは、「ウン…」と、妙に優しいバーシアの声が聞こえてきたのが、たまらなく辛かった。

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