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  晒された女神外伝『Cat in the Train』                           MJ作

晒された女神外伝『Cat in the Train』

額にびっしりと浮かんだ汗。激しい息遣いと時折漏れる苦しげな呻き。

泪は夢を見ていた。

悪夢。

身の毛がよだつような飛び切りの悪夢。

ベッドの上で一際大きな声が上がり、汗まみれの躯が跳ねるようにうねる。

だが、彼女を包み込んだ悪夢のヴェールはどこまでも深く、執拗だった。

未だ泪は、悪夢の掌中にある。

だが、彼女は知らない。

たとえ朝になり、目覚めを迎えたとしても、それは悪夢の終わりを意味しないということを。

なぜなら―――彼女にとって本物の悪夢は、“目覚めた後”の世界にこそ存在しているのだ。



大事な話があると、妹の担任教師から呼び出しを受けた泪。
放課後の学校へとやってきた彼女に担任教師は告げた。
『愛さんはね、レイプされたんですよ』
驚愕のあまり硬直した泪に追い討ちをかけるように、目前に晒された無数の写真。
そこには、想像を絶する酷虐に苦悶する最愛の妹の姿があった。
その過程で自分たち姉妹の秘密―――世間を騒がす女盗賊団であるという事実―――すら握った担任教師に、泪は、一枚また一枚と薄皮を剥かれるように抵抗の術を奪われていった。
そんな彼女に持ちかけられた一つの『賭け』。
60分間教師の玩弄に耐えられたなら、写真もネガも返してやる。
だが、耐えられなかった時には・・・・・・。
泪は賭けを受けた。他に選択の余地はなく、心と身体を閉ざすことで、耐え切れると判断したのだ。
だが、その判断は甘すぎた。
女の性を知り尽くした担任教師の手管に対し、妹たちの手前、禁欲的とすら表現できる生活を送ってきた泪は、あまりにも未熟だったのだ。
その妖艶に熟れ咲いた肉体とは対照的に・・・・・・。
敏感な乳房を徹底的に責められ、蕩ける秘所を焦らされ続けた泪は、絶頂を求める叫びすら搾り取られた末に、強烈なオルガズムを叩きつけられた。
賭けの結果は―――泪の完敗だった。



―――自らの上げた悲鳴で、泪は目覚めた。
飛び起きた姿勢のまま荒い呼吸を吐き出し続ける彼女は、しばらく動くことができないでいた。
激しく脈打つ鼓動は、容易には治まりそうにない。
それでも、ようやく首をめぐらせて時計を見る。
未だ5時前。カーテンの外は暗いままだ。
だが、泪は再び眠りにつこうとは思わなかった。
眠ればまた、同じ夢を見てしまいそうで怖かったのだ。
そして同時に思う。
昨日の出来事は、全て夢だったのではないのか、と。

よりにもよって妹の担任教師に教室で・・・・・・。
そして帰り道、無数の視線の中で晒してしまった破廉恥行為・・・・・・。

我が事とはいえ、とても現実に起きた出来事とは思えなかった。
だが、そんな淡い期待も、所詮は願望でしかない。
寝室の入口に置かれた大きめの紙袋。
ショッキングピンクのド派手な色彩が、現実の在り処を如実に教えていた。
泪は、ベッドからノロノロと身体を起こすと、無言のまま浴室へと向かった。

熱いシャワーを浴び、髪を乾かした泪は、バスタオルを巻いた姿のまま紙袋を開いた。
中には、濡れたように黒光りするエナメル製のボディーコンシャスワンピースと、同色のピンヒール、そして“ちょっとした”アクセサリーが納められている。
最も目を引くワンピースを手にした泪は、それを広げて驚いた。

(なんて・・・・・・小さいの・・・・・・それに、薄い・・・・・・薄すぎるわ・・・・・・)

年齢的にはボディコン世代に近い泪だが、実際に手に取ったのは初めてだ。
当然、身に着けた経験などある筈がない。
故に、そのあまりの小ささと薄さに驚きを禁じえない。
だが、いつまでも見とれている訳にはいかなかった。
意を決した泪は、等身大の鏡の前に立ち、バスタオルを床に落とす。
未だ夜明け前の薄暗い室内に、美神を思わせる優美でグラマラスなシルエットが鮮やかに浮かび上がった。
下着を着けることは“許されていない”。
ボディコンのフロントジッパーを外し、ベストを着るように背中から袖を通す。
ノースリーブのデザインであるため、着ることそのものは初めてでも難しくない。
身体の中心でジッパーを合せ、引き上げる・・・・・・が、その手が途中で止まった。
いや、止まったのではない、止まってしまったのだ。
泪は改めて驚く。
彼女の豊か過ぎるバストのボリュームに遮られ、胸元半ばに達したジッパーがそれ以上持ち上がらなかった。
一応、乳房の半分以上は覆われ、バストサイズのわりに小ぶりな肉芽も隠れているが、半開きのジッパーからこれ見よがしに盛り上がった巨大な白い肉球は、挑発的過ぎる。
極薄とはいえ、通気性皆無のエナメル生地に、伸縮性は殆ど期待できない。
泪は精一杯まで息を吐き出しながら、腹筋を引き締めた。力任せに引き上げると、ジッパーはようやく頂点に達した。
だが、それで全ての問題が解決するわけもなく、むしろ、一部では明らかに悪化していた。
伸縮性のないエナメル製ボディコンに、泪の肉感的な肢体は到底収まり切らないのだ。
黒光りする生地が隙間なくピッタリと躰に張り付き、全身を締め上げられているような心地すらする。
特に、激しく圧迫されている美巨乳は、唯一の開口部―――深く切れ込んだボディコンの胸元―――に集中し、搾り出されたような凄まじさで盛り上がっている。
見下ろした胸の谷間は、目前に尻をぶら下げているような有様で、激しい動きなど見せれば、今にも音を立てて乳肉が飛び出してしまいそうに思える。
それだけでも眩暈がしそうであるのに、膝上25センチはあろうかという超ミニの裾は、どれほど引っ張っても太腿の付け根にしか届かなかった。
常に歩幅に気をつけていなければ、ボディコンの裾が勝手にずり上がり、ムッチリと肉づいた臀部まで晒してしまいそうになる。
更に、過激なのはデザインばかりではなかった。
締め付けられるようなフィット感と生地の薄さ、そして表面の派手な光沢に、予想以上に身体の線が出てしまうのだ。
よくよく目を凝らせば、まだ尖りもしていない乳首の形状ですら容易に想像できてしまうだろう。
くびれたウェストや、張り出した腰骨のあたりに走る皺の悩ましさは、淫らなステージの衣装―――ボンテージコスチュームのようだ。
泪は改めて鏡を見た。

(本当に・・・・・・本当に、こんな格好で・・・・・・?)

胸も背中も両脚も、見せ付けんばかりに曝け出したボディコンワンピース。
鏡の中で、それは今にもハチ切れんばかりのギリギリのテンションで張り詰めていた。
抜けるような白い柔肌と、濡れたように黒光りするエナメルのコントラストは、思わず息を呑んでしまうほどエロティックで、鏡の中の存在が自分自身とは容易に信じられない。
そこには、これまでの彼女とはまったく別種の女が映し出されていた。
まるで娼婦のような―――いやそれ以下の、まるで盛りのついた牝そのもの。
己が欲情を満たすが為に、無分別に牡を誘い、惑わせ、たぶらかす、盛りのついた牝。

(―――いやらしい)

純粋にそう思う。女として、穢らわしいとすら思う。
だがそんな気持とは裏腹に、彼女の胸にはジワジワと疼くような感覚があった。
思えば、周囲の視線を気にするような格好をしたのは何年ぶりだろう。
決して、これまでの彼女が服装や装いに無頓着であったわけではない。
姉としても、母親代わりの肉親としても、どこに出かけても恥ずかしくないスタイルを常に保ってきたつもりだ―――そう思ったところで唐突に気付く。

“女として”

姉としてでも母としてでもなく、“一人の女”として、周囲を意識したのは何年ぶりのことか。
二十歳の頃か?いや、高校生くらいの頃か?・・・・・・思い出せなかった。
もちろん、女盗賊団キャッツアイのリーダーとして、時には女の色香を武器にすることもある。
だが、それはあくまで“道具”として、であり、仕事をより円滑にこなすためのアイテムでしかなかった。
両親と呼べる存在を失って以来、泪は自身の“女”を意識することを避けてきた。
もし一度それを意識してしまえば、自分は姉であることも母親代わりであることも放棄してしまうかもしれない。放棄とまではいかなくても、両親から満足な愛情を受けることができなかった二人の妹の心に、贖うことのできない空虚を穿ってしまうかもしれない。
いうなれば、人一倍強い泪の責任感が、自身の“女”を“姉”という名の硬い殻の中に閉じ込めてしまったのだ。
その頑なまでの殻が今、昨日の異様な経験と、淫猥を絵に描いたようなボディコンワンピースによって、ひび割れを起こしつつある。

(わたし、こんなに―――)

それは、10年以上久しく忘れていた感情。
三姉妹の長女として、二人の妹の母親代わりになることを誓った日から封印してきた感情。

(こんなに―――脚もスラッとして・・・・・・胸だって、ウェストだって、お尻だって・・・・・・)



―――いつまで鏡を眺め続けていただろう。
魅入られたように自らの姿を凝視していた泪は、ようやく我に帰った。
時計を見、思った以上に時間が経過していることに気付く。
紙袋の底に残ったストッキングを手に取って、急いで脚に通した。
透明感のある黒ストッキングはパンストタイプではなく、セパレートのガーターストッキング。
黒ストッキング越しに透け映る白い肌の艶感は、驚くほど悩ましい。
履き口の内側がシリコン加工されているためガーターベルトは必要ないものの、ボディコンの裾が短すぎて、レース地のストッキングの縁が丸見えだ。
だが、そんな刺激的過ぎる光景にも、今の泪は動じない。
そのままメイクとセットを始める。
最初は、喫茶キャッツのカウンターに立つ時と同じく、ナチュラルなメイクにしたものの、エナメルブラックのボディコンにはまったく似合わなかった。
少しだけ躊躇した後、思い切って濃い目のアイラインを描き、真紅のルージュと派手なパール入りのグロスを引いた。
漆黒の髪も、ヘアアイロンを使っていつもよりウェーブを強く、より華艶な印象に仕上げる。
最後に、いつもより多めに香水をふりかけた。
時間が迫っている。
近隣の住民が出勤する時間帯より前に、隣町の駅まで赴かなければならない。
玄関で、ボディコンと同色のエナメルピンヒールを履いた。
アクセサリーだけは身に着ける覚悟がつかなかった為、持ち手のないハンドバック―――パーティー用の小洒落たクラッチバッグ―――に捻じ込んである。
ピンヒールのストラップを止め、立ち上がる。

「―――あっ」

12センチ高の恐ろしく細いピンヒール。
両脚の腱が鋭く引き締まり、ヒップがキュッと緊張する心地に、泪の唇から思わず声が漏れた。
自分でも信じられないくらい、感覚が研ぎ澄まされているのが分る。
だが、今更引き返すわけにはいかない。
ドアを開ける泪。
大きく息を吸い込んで覚悟を決めると、朝焼けが照りつけ始めた早朝の街に踏み出した。



郊外から都心へと向かう電車が発着するホームは、いつもどおりの殺人的な混雑だった。
周りは、チャコールグレーや黒、ネイビーといった地味な色合いのスーツを身に着けたサラリーマンたちが大半を占める。
そんな中、派手な輝きを放つ漆黒のボディコンワンピースをまとった美女の姿は、いやが上にも男たちの視線を釘付けにしていた。

12センチのピンヒールにより、180センチを越えるずば抜けた長身。
一分の隙もなくピッタリと肢体に張り付くボディコンワンピースは、グラマラスで官能的なボディーラインを晒け出すどころか、より過激に、より扇情的に演出する。
殆ど丸出しの肩と背中、丸々とした二つの肉球がこんもりと盛り上がった胸元、薄黒のシースルーストッキングによって悩ましく色づけされた美脚、超ミニの裾とストッキングの僅かな隙間に晒されたムッチリと色っぽい太腿。
爽やかな早朝には不似合いなほど淫蕩な色香をムンムンと発散して肉体、そこから視線を上へと転じても、男たちの期待は裏切られない。
そこには、豊かな黒髪と口元のホクロが印象的な、美麗女の貌がある。
典雅なまでの気品に、女盛りの“熟れ”が絶妙にブレンドされた美貌には、男をゾクゾクとさせずにはおかない物憂げさまで含まれていた。
彼女の立つホームのみならず、反対側のホームからも、何事かと凝視する視線が次々に飛んでくるほどだ。

男たちの視線が集中していることは、それを向けられた本人―――ボディコンに身を包んだ泪―――にも分っている。痛いくらいに。
生来の美貌とモデル顔負けのスタイル故に、男たちから視線を向けられることには慣れている泪だが、こんなにも無遠慮で生々しい視線を向けられたのは初めてだ。
気を強く張っていなければ、あまりの視線の迫力に、今にも両脚が震え出しそうになる。
だからこそ、泪は必要以上に背筋を伸ばし、毅然と正面を見据えていた。

「―――?」

不意に、手にしたバッグが振動を発し始めた。
エナメルブラックのボディコンに合せて選んだ、派手なラメ入りクラッチバッグ。
そこにしまった携帯電話が振動を発しているのだ
発光する携帯のディスプレイには、予感した通りの名前が表示されている。
泪は一瞬だけ躊躇した後、通話ボタンを押した。

『―――俺だ』

その声を聞くだけで、全身に怖気が走り、肌が粟立った。
一瞬で舌と喉が干上がり、返事を返すことができない。
だが、電話の相手はそんな泪の反応を気にすることなく言った

『よく似合ってるじゃねぇか。
 昨日のパリッとしたスーツ姿にもソソられたが、今日のボディコンは昨日以上だ。
 あんまりエロ過ぎて、見てるコッチが恥ずかしくなってくるぜ』

見られている―――そう直感した泪は、携帯を耳にしたまま振り返り、周囲を探した。
だが、だらしなく緩み切った顔のサラリーマンたちと視線がぶつかるだけで、肝心の男を見つけることができない。

『キョロキョロするんじゃねぇよ。
 あんまりジロジロ見てると、エロいネーチャンに誘われてるって
 勘違いするバカが出てくるぜ』

そうまで言われては、大人しくせざるを得ない。
事実、ほぼ満員状態のホームにあっても、泪の周囲だけは極端に人が多いのだ。
全身に絡み付いてくるような周囲の男たちの視線を振り切り、泪は正面に向き直った。

『ところでな・・・・・・俺がプレゼントしたモノは、“もう一個”あったよな?』

「―――っ!?」

泪の臓腑が音を立てて縮み上がった。
男の言う“プレゼント”は、結局身に着ける覚悟ができないまま、今も小さなクラッチバックに収まっている。

「それ、は・・・・・・い、今から、これから、着けようと思って・・・・・・」

必死に絞り出した声は、自分でも驚くほどしわがれ、掠れていた。
泪の内心では、恐怖と焦燥感が恐ろしいほどの勢いで渦巻いている。

『俺は、“家から着けて来い”って言ったんだぜ。
 一晩寝て、そんなことも忘れちまったのか?
 ああ・・・・・・お前にとっては、“愛ちゃん”のことなんてその程度のことなんだな?』

「ち、違いますっ!!」

最愛の妹の名を持ち出され、思わず泪は我を忘れて叫んでいた。
だが次の瞬間、周囲からの視線が数倍に膨れ上がり、頬を朱に染めて俯いてしまう。

『舐められたもんだ。
 俺には、この満員のホームで愛ちゃんの写真をバラまく度胸がないとでも思ってるみたいだな。』

「っ!?ま、待って!!すぐに、すぐに着けますから、それだけはっ!!」

男の言葉に込められた危険さに、周囲から殺到している視線すら存在感を失う。
泪は、電話を耳にしたまま必死の哀願を繰り返していた。

『よぉし、そこまで言うなら、今回だけは勘弁してやる。
 さっさと着けろ』

「あ、ありがとう・・・・・・ござい、ます」

もはや僅かな躊躇も許されない。
ためらう仕草を少しでも見せれば、男は間違いなくやるだろう―――そういう男だ。
出合って二日も経ていないのに、泪には確信があった。
震える手で、バッグから“それ”を取り出す。
その場にはまったくそぐわないアイテムの登場に怪訝そうな色を浮かべているサラリーマンたちを無視し、素早く“それ”を首に巻きつけた。
その瞬間、目撃していた全員が驚愕のあまり目を剥いた。中には驚嘆の呻きを漏らす者までいる。
無理もなかった。
泪が取り出し、首に巻きつけたのは―――大型犬用の真っ赤な首輪だった。
首輪をモチーフにしたチョーカーやネックレスではなく、正真正銘、本物の首輪。
早朝のホームで目撃するにはあまりに異様で、異常すぎる光景だ。
周囲から上がるざわめき、失笑、声なき揶揄。
あのエロい格好した女、変態じゃねえの?、そんな囁きすら聞こえてくるようだ。
泪は強く、思い切り強く両目を瞑り、奥歯を折れんばかりに噛み締めた。
それでも、剥き出しの白い両肩が小刻みに震えてしまうのを止められない。
全ては愛のため、妹のため、その想いにすがりつくことで、あまりの羞恥に狂い出しそうな自分を必死に押さえつける。
だが、押さえつければ押さえつけるほど、妹のことを思えば思うほど、純粋結晶たる泪の心は激しく軋み、ひしゃげ、壊れていく。

『やればできるじゃねぇか』

携帯電話から浴びせられる声すら、殆ど放心状態の泪には、遠い世界のことのように思えた。

『だがな、お前が俺の命令を無視した事実は変わらねぇ。
 “落し前”はキチンとつけてもらうぜ』

脅迫同然に何事かを命ずる男。
思考能力が著しく低下した泪は操られるように頷くと、右手を胸元へと伸ばした。
白魚のような指先が、胸元一杯まで引き上げられたフロントジッパーを摘み―――ジリジリと引き下げ始める。
周囲のざわめきと無音の興奮が急上昇する中、ジッパーは圧倒的な膨らみを誇るバストの中央部を経て、更に下方へと進んでいく。
焦らすように、ゆっくりと。
その過程で、新たな逃げ場所を見つけた乳房は中央に寄り集まり、深い谷間と肉球が“上”から“前”へと露出を移動させていく。
妖熟した美女が魅せる凄艶極まりない媚態プレイ。
周囲の男たちは、半ば唖然と、半ば呆けたように凝視していることしかできない。
そして、ジッパーがバストの下端でようやく停止した時、緊張ですっかり固くなった肉の蕾こそギリギリのところで隠されていたが、その豊かなバストの八割近くが早朝の冷たい空気に晒け出されていた―――。



―――通勤快速車内。
車内の混雑は、ホーム以上だった。
“表向き”自営業を営んでいる泪に、通勤時間帯の満員電車に乗った経験などあるはずもなく、吊革にも手摺にもありつけないまま、ドア付近の空間で身動きが取れなくなっていた。
これが満員電車に乗りなれている者であれば、何も考えないまま周囲の人々に身体を預けるところだが、未経験の彼女には望むべくもない。
女盗賊団“キャッツアイ”のリーダーとしての人並みはずれたバランス感覚も、人ごみで四肢が自由にならないことに加えて12センチの極細ピンヒールを履いていては、おのずと限界がある。

「あ・・・・・・ご、ごめんさない」

電車が不規則な増減速や左右への強い揺れを起こすたび、泪はバランスを崩して周囲のサラリーマンたちにぶつかり、足を踏みつけた。
幸か不幸か、ぶつかる相手はホームにいる時から彼女に目をつけていた者たちであり、妖艶な美女の柔らかい肉の感触と芳しい香りを人一倍満喫できるとなれば、文句一つ言うつもりはない。

(愛は・・・・・・いつもこんな電車に乗ってるの?)

周囲の人ごみと電車の揺れに翻弄される泪がそう思った時、唐突にそれは触れてきた。

「っ!?」

最初は偶然かと思った。
だが、極薄のエナメル生地がピッチリと張り付くヒップに触れてきた掌は、密着したまま離れようとしない。
それどころか、熟肉のタップリ詰まった尻朶をネットリと撫で回し始めた。

「や、やめてくださいっ!!」

咄嗟に振り返り、声を上げる泪。
その瞬間、手の感触はスッと消え去ったが、背後にいたサラリーマンたちは怪訝な表情で彼女を見返すだけだ。
赤面した美貌を俯かせながら、再び前へと向き直る泪。
思えば、これほど人が密集した状況であれば、後からでなくとも彼女の尻に手を伸ばすことができる。
横からでも、無理をすれば前からでも。

それに―――。

泪は、サラリーマンたちの怪訝な表情が、本心からのそれでないことに気付いた。
彼らは、彼女が痴漢に遭ったことを“知っている”。
怪訝さを偽った表情の下に、そんな破廉恥な格好をしているお前が悪いんだろう、という軽蔑し切った感情が沈殿していることに気付いたのだ。
だが、そんな彼らを一方的に糾弾することもできない。
なぜなら、もし泪が彼らの立場であれば、程度の差こそあれ、似たようなことを思ってしまうことが容易に想像できたからだ。
愕然とする泪。
数刻前、鏡の中で見た自分自身の姿を思い出す。

“痴漢されても仕方のない卑猥な女”
“無分別に男を誘う淫らな女”

今、周囲に思われていることを、数刻前、自分自身でも思ったのだ。
負い目や自責といったマイナスの感情が急速に膨れ上がり、脳が痺れたように思考を失う。
そんな変化に気付いたのか、再び伸びてきた手は、またしても泪の尻へと触れてきた。
よほど神経が張り詰めているのか、ノーパンのヒップは異様なくらい敏感になっている。

(ま、また・・・・・・触られる・・・・・・)

拡大再生産された羞恥に精神を打ちのめされた泪に、もう一度声を上げる勇気も、手を払いのける気力もなかった。
ただひたすら、見ず知らずの男に身体を撫で回されるおぞましさに備え、血が滲むほど唇を強く噛み締める。
だが、誰のものとも知れない手は、思いがけない行動に出た。

「―――アっ!?」

男の手が超ミニの裾を掴んだと思った瞬間、それをグイッと一気に捲り上げたのだ。
染み一つない雪白の臀部が100%晒け出された。
咄嗟に両手で尻を隠そうとするが、溢れんばかりの周囲の人ごみに遮られ、腕を後に回せない。
幸い、人ごみに遮られて周囲からその光景は見えないが、それをいいことに、泪の尻を丸出しにした手は縦横無尽に蠢き始める。
タイト過ぎるボディコンから、Tバックかノーパンと予想していたのか、完全に晒されたナマ尻にも、男の手には戸惑いも躊躇も感じられなかった。
鍛え上げられた筋肉の上に柔らかい熟肉がトッピングされた完璧なヒップ。
ムッチリとした肉感とキュンと吊り上がった張りを両立した極上カーブが何度も撫でられ、感触を確かめるように何度も鷲掴みにされる。

「ゥ、うぅっ・・・・・・」

俯き、眉間を悩ましく歪めたノーブルな美貌から、か細い嗚咽がこぼれた。
尻を弄られる痛み故か、あまりの絶望故か、本人にも定かではない。
唯一確かなことは、激しすぎる自己嫌悪に竦む泪が、抵抗の意志を完全に失っているという事実だけだ。
それが、より一層男の手を大胆にしてしまう。
深く長い尻溝に沿って何度も表面を往復していた手が、滑り降りた動きのままに、割れ目の内部にまで進入してきたのだ。

(い、イヤッ!!)

これには泪も貌色を変えた。
太腿と太腿を必死に閉じ合わせ、無法な指の侵入を防ごうとする。
だがその時、電車が左右に激しく揺れた。

「あっ!」

バランスを取ろうと躯が反射的に動き、閉じていた両脚が思わず開いてしまう。
千載一遇のチャンスを、痴漢が見逃すはずがなかった。
泪も急いで再び脚を閉じようとするが、間に合わない。
無防備に開かれたノーパンの股間に手首近くまで掌が捻じ込まれ、クロッチに張り付くように密着する。

(そんな・・・・・・ウソっ・・・・・・!?)

泪にとっては悪夢を見るような想いだった。

今自分は、背後から恥部に手を突っ込まれている。
見ず知らずの男に。
朝日が眩く差し込む、通勤電車の中で。

どれ一つをとっても、数日前なら絶対に考えられなかった異常事態。
この僅か数十時間の変化が激しすぎ、泪の心は未だ現実を受け入れられていない。

(お願い・・・・・・悪い夢なら・・・・・・早く覚めて・・・・・・)

子供じみていると思いながらも、そう心の中で念じざるを得なかった。
だが、現実という名の悪夢は、彼女を決して逃そうとはしない。
むしろ、より過酷な運命を彼女に用意している。

ガッチリと股間に喰い込んだ痴漢の手に力が篭った。
指先で薄い恥毛をシャリシャリと掻き回しながら、マッサージするように揺すられる掌全体が、ヴァギナからアヌスまでグリグリと強く刺激してくる。

「うぅっ・・・・・・」

ゴツゴツとした男の手の感触に、最初は痛みとおぞましさしか覚えなかった。
しかし、1分、2分、3分と執拗にそれを続けられると、心とは関係なく肉体が勝手に状況を理解し始める。

女体、その最も大切な部分へ加えられ続ける乱雑な刺激。
それは、いつまで経っても終わる気配がない。
このままでは、聖域ともいうべき重要部位が傷ついてしまう可能性がある―――。

そんな判断の下、女が女であるための大切な部分を守る為に、肉体が“防御システム”のスイッチを入れたのは、生物として当然の反応だった。
快楽中枢が起動し、肉体に“潤滑剤”となる体液の分泌を促す。
だが、人間の神経中枢は、特定の機能だけを限定して動作させられるほど便利なモノではない。
体液分泌を命じるための快楽中枢の起動は、目的であった機能のみならず、不可避的に他の部分へも影響を与えてしまう。

「んッ・・・・・・んんっ・・・・・・!」

観念しきったようにうな垂れ、歯を食い縛って痴漢の為すに任せていた泪。
だが、不意に蹂躙される股間の感触が変化していることに気付いた。
ゴリゴリと削られるようだった掌との接触面、その“滑り”がよくなっている。

(ま、まさか・・・・・・)

思い違いではなかった。
泪は―――“濡れて”いた。
他人と比べたことなどない彼女に、自分が濡れやすい体質かなど知る由もないが、事実は変わらない。
加えて、彼女の肉体が示した反応はそれだけではなかった。
俯いた視線の先にある、これ見よがしに晒した雪白の胸の谷間。
その両サイド、極薄のエナメル生地の表面にいやらしく浮かび上がる肉芽の陰影が、明らかに大きくなっている。

(立ってる・・・・・・乳首が・・・・・・)

気付いた瞬間、泪は頬のみならず、肉体の奥底がカッと熱くなるのを感じた。
それは錯覚なのかもしれない。
だが、明晰な筈の彼女の頭脳から、それを疑う客観性は失われていた。
妹がレイプされたという衝撃、そのレイプをネタに強請られているという恐怖、そして、妹を救わなければならない筈の自分までもが魔淫に呑み込まれつつある現実。
自責という名の檻に囚われた彼女は、全ての事象、全ての原因が、自らの淫性によるものであると信じて疑わない。
絶望による混乱は錯乱寸前にまでレベルアップし、男の手を挟みつつも、暴虐を少しでも和らげようと渾身の力で閉じ合せていた両脚から、急速に力が失われていく。
自由を得た指先は、もう回り道しなかった。
柔らかく蕩けた媚唇を丹念に割り開くと、いきなり中指を膣孔に突き立てた。

「ウグッ・・・・・・!」

低く呻いた泪の美貌が思わず天を向く。
どれほど濃く、どれほど下品なメイクでも決して奪い去ることはできないと思われた神々しいまでの美しさが剥がれ落ち、その下から現れたのは、情欲に焦がれる女の生々しい貌。
既にタップリと濡れ潤い、蜜壷そのものと化していた彼女のヴァギナは、誰の物とも知れない男の指を簡単に根元まで咥え込んでいた。
蜜壷の奥底まで貫いた人差し指が、締め付け具合を確かめるようにその場でグルグルと回転する。
指に強く絡み付いた肉襞は歓喜に震えるように蠢動し、秘奥全体の発する熱感をより大きく、より狂おしく奔騰させる。
更に、男の人差し指が未だ薄皮に包まれた肉芽を軽く弾くと、泪は思い切り頭を殴られたような衝撃を覚えた。

(こんな・・・・・・電車の中で・・・・・・わたし・・・・・・)

自分自身に恐怖する泪。
だが、恐怖に思えば思うほど、倒錯した情欲に狂う躯は更に熱く燃え上がり、秘奥は潤みと熱気を増す。
そんな泪の想いを知ってか知らずか、円運動を続ける指の動きも確実にスピードを増していく。

「ぁ・・・うぅっ・・・・・・ん、んんっ・・・・・・」

小鼻が悩ましく膨らみ、吐き出される呼吸に混じる媚声はもう隠しようがなかった。
既に周囲のサラリーマンたちも、泪の異常に気付いているのかもしれない。
事実、チラチラと視線を送りつけてくるのはまだいい方で、興味津々にこちらを覗き込もうとする者までいる。
泪としては、せめて見ないふりを、気付かないふりをしていて欲しかった。
だが、そんな想いも空しく、周囲の全員が自身の痴態の一挙手一投足を注視している心地がする。
それは、不安と恐怖、自責の念が見せる幻影。
だが、自分が“見世物”になっているかもしれないという泪の不安は果てしなく膨らみ、いつしか“全員に見られている”とい既成事実を勝手に作り上げていた。
被害妄想にも似た自縄自縛の羞恥は、いっそ狂ってしまいたいと思わせるまで彼女の精神を追い詰めていく。
脆弱化し、進退窮まった心は、自らの均衡を保つために、更に危険な幻想を映し始めた。
それも、彼女自身の願望、という形で。

―――理性も感情も全て捨て去り、体内で狂奔する衝動に身を任せられたら。
薄皮を剥かれ、剥き出しにされた淫核を思い切り嬲られたら。
そうすれば―――そうすれば全ての苦悩から解放され、牝としての本能と歓喜のままに、自分を解放することができる・・・・・・。

既に、狂ったように疼く秘奥は止め処なく甘蜜を溢れさせ、指が蠢く度に淫らな湿音さえ奏でていた。
滴り落ちる愛液は、太腿からストッキングを伝ってピンヒールの中にまで流れ込み、薄皮越しのノックを受け続けた淫核は、今や更なる責め嬲りを求めるように薄皮を脱ぎ捨て、固く大きくそそり立っている。
もしかすると、周囲のサラリーマンたちも、その場に立ちこめる“発情した牝の匂い”に気付いているかもしれない。

現実と妄想が手を取り合ってお互いを補強し、泪に屈服を迫る。

もう―――逃れられない。
自分は、興味本位の観客たちが注視する中、電車の中で絶頂を晒してしまうのだ。
あるいは、少しくらい大きな声を出してもいいのかもしれない。
どうせ、周囲の人々も自分をそんな淫らな女だと思っているのだから・・・・・・。

泪の反応が変わった。
喘ぎ続けるノーブルな美貌からみるみる苦悩の色が消え去り、生々しいほどの肉悦がそれに取って代わる。
理性と恥じらいという堰を失った躯の内側には歓喜が溢れ、魔淫の衝動が命ずるまま貪欲に快楽を求め始めた。
力を失いながらも辛うじて閉じ合されていた美脚がジリジリと開き、位置の下がった腰を男の手に強く押し付ける。
より激しい淫弄を、もっと大きな快感を、そうせがむように丸出しの尻が右へ左へ淫らに踊る。
それがどれほど破廉恥な行為か、自責と羞恥に囚われた今の泪には分らない。
ただ、この狂い出しそうなほどの恥辱が一時でも忘れられるのであれば、何にでも溺れていたかった。
そんな想いに応えるように、痴漢の指もラストスパートに入る。
愛液を飛び散らすような勢いで激しく中指を激しく出し入れしながら、人差し指で剥き出しのクリトリスを強く嬲る。
瞳の奥で火花が散るような凄まじい快感。
アブノーマルなコスチュームで飾られた凄艶な女体が感電したように震え、ガクガクと身悶える。
快楽のボルテージはあっという間にレッドゾーンを越え、あと数秒で爆発的な絶頂へ至るのは確実だった。

(い―――イクッ・・・・・・!!)

既に泪は絶頂を迎えることを受け入れていた。
むしろ、血を吐くような想いと共に、それを渇望している。
それ故に、絶頂直前という絶妙なタイミングで手指が引かれた瞬間、信じられないという想いと表情で背後を振り返っていた。

「いよぉ、朝っぱらから随分とお盛んじゃねぇか」

「―――っ!?ご、剛田・・・・・・」

それが、男の名前。
担任教師という立場にありながら、最愛の妹をレイプし、それをネタに強請までかけてきた男の名前。
長らく眠っていた泪の“女”を覚醒させた男の名前。
そして今、泪に延々と痴漢行為を加えていた男の名前。
ピンヒールを履いた泪よりも頭一つ大きい巨体の上に乗っかった男の顔には、邪悪や凶悪と形容するほかない愉悦が浮かんでいた。

「どうした?最後までイカせてもらえなかったのが、そんなに不満だったか?」

ニヤニヤと嗤いながら、泪の目前に恥蜜まみれの中指を突きつける。
汚れているのは中指だけではない。
他の指も掌も、派手に飛び散った彼女の愛液でドロドロに濡れ汚れ、半渇きのそれが酷い匂いを発していた。
これ以上ない現実を突きつけられた泪は、言葉一つ、反応一つ返すことができない。
いや、反応がないのは、剛田の振る舞いだけが原因なのではなかった。
泪は、最も見られたくない人物に、最も見られたくない痴態を見せてしまったのだ。
最後に晒した、尻を振って自ら求める卑猥極まりない所業まで。
相手が剛田だと知らなかったことなど、何の慰めにもならない。
そのショックが大きすぎ、今の泪は完全に自分を見失っていた。
茫然自失と言い換えてもいい。

「へっ・・・・・・聞いちゃいねぇか。
 なら、そろそろ目を醒ましてもらおうか」

背後から伸ばされた剛田の手が、呆然と立ち尽くしたままの泪の正面に回りこむ。

「とっくに朝だぜ。起きろ」

そう言うや否や、剛田の手がボディコンワンピースのフロントジッパーを力任せに引き下した。
一気に下端まで。
勢いのあまりホックが外れ、ワンピースだったそれは、単なる布切れと化す。

「―――えっ!?」

泪にとっては青天の霹靂だった。
不意に身体中を締め付けるようだった圧迫感が消失したことに気付いて視線を下すと、そこには信じられない光景が広がっていた。
ブルンと音を立てるような勢いでまろび出すFカップの巨乳、その下では縦長の臍も、薄い恥毛すらも、すっかり剥き出しになっている。
つまり、躯の正面は丸裸ということだ。

「ひっ!!」

麻痺していた理性と羞恥心が一瞬で蘇り、短い悲鳴を上げながら両腕で身体を隠そうとする泪。
だが、その両腕は目的を達することなく背後から捻り上げられ、次の瞬間にはボディコンが力ずくで剥ぎ取られた。手にしていたクラッチバックまで奪い取られる。

信じられなかった。
泪は、ピンヒールとガーターストッキング、そして犬用の首輪以外一糸まとわぬ姿で電車に乗っていた。
周囲にいるのは、スーツ姿のサラリーマンばかり。
そんなありふれた日常の中に、乳も股間も尻も丸出しにした姿で、泪は立ち尽くしているのだ。
あまりの事態の異常さに、正気を取り戻したばかりの意識がスーッと遠くなる。
だが、悪夢のような現実は、彼女に失神することすら許さなかった。
天井のスピーカーからメロディーとアナウンスが流れ始め、電車が減速を開始する。
いくつもの駅を通過して走り続けていた快速電車が、ようやく停車駅に達してようとしていた。
それに気付いた泪の中で、絶望と焦燥が奔騰し、混乱は錯乱寸前にまで至る。
どうしたらいいのか、何をしたらいいのか、全く見当がつかない。
背後に立ったままの剛田の存在すら、その脳裏からは消え去っている。
何一つ答えを見つけられないまま、電車が停止した。
空気音を立てて開くドア。
それを合図に、一斉に動き出す人々。
だが、泪は動かない。いや、動けない。
そんな彼女に背後から浴びせられる声。

「俺に抱いて欲しかったら、遠慮なく追っかけてこいよ。
 素っ裸のまま、ホームを走れるんだったらな」

剥ぎ取ったエナメルボディコンとバッグを手に、剛田が嗤っていた。
この世に存在する全ての邪悪を具現化したような醜い嗤い。
その嗤いが徐々に遠くなっていく。

「ま、待ってっ!!」

事情を知る剛田がいなくなれば、本物の露出狂、若しくは変質者にされてしまう。
思わず泪は叫び、電車を降りて剛田を追おうとした。
だが、ピンヒールを鳴らして駆け出しかけた彼女の美脚は、直前で急停止した。
偶然、一人のサラリーマンと、ばったり向かい合ってしまったのだ。
サラリーマンは、いきなり叫び声を上げた泪の顔を見た後、何気なく視線を下方へと向け―――そして絶句した。
彼はまともに目撃してしまったのだ。
通勤電車という日常空間に存在する、全裸の、女の姿を。
類稀な美貌も、外人モデル顔負けの完璧なスタイルも、この際全く関係なかった。
彼の意識に焼きついているのは、早朝の通勤電車に乗っている、白い肌も眩しい裸の女という異常極まりない光景だけ。

―――見られた―――

ショックに打ちのめされているのは泪も同じだった。
全身の毛が逆立つほどの衝撃。
思考停止に陥り、大事な部分を隠すことすら忘れている。
向かい合ったまま、彫像と化したように動かない二人。
すし詰め状態から多少乗客が減少したことで、ようやく周囲の人々も事態に気付き始めた。
ガーターストッキングとピンヒール、そして真っ赤な首輪を卑猥なアクセサリーに、丸裸で立ち尽くす一人の女。
熟れ満ちるという表現こそ相応しい豊か過ぎるバストも、タップリと肉を詰め込んでムッチリと張り詰めるヒップも、それらと対照的にキュンとくびれたウェストも、絹糸のような恥毛も、全てが眩い朝日に照らし出されて光り輝き、この世のものとは思えない圧倒的な風情をたたえている。
その光景は、場所や状況が異なれば、美神と評する他ない。
だが、ここは天上の楽園でも、この世で最も楽園に近い場所でもなかった。
サラリーマンたちが貨物か家畜のように詰め込まれる朝の通勤電車。
楽園より、遥に地獄に近い場所、神聖なる女神が、悪魔によって堕神へと貶められる場所。

ざわめきと驚愕が波紋のように伝播し、乗客たちがジリジリと距離を置き始める。
彼らは、この異常極まる事態がアダルトビデオの撮影か何かだと思っていた。
定刻通り出社することがこの日最初の規則である彼らにとって、興味こそあれ、面倒な事態に巻き込まれるのは絶対に御免だった。
結果、未だほぼ満員状態の筈の車内に、ぽっかりと円形の空間が出来上がる。
その中心には、天に帰る羽衣を剥ぎ取られ、淫欲に堕落した女神がいた。
“泪”という名の女神が。

「あ・・・・・・うぁ・・・・・・」

こぼれ落ちる嗚咽、震える躯。
喉は干上がったように渇いているのに、躯は火がついたように熱い。
目にしている光景は白く霞んで現実感を失い、額を冷汗が流れ落ちる。
ある意味、それは究極の辱しめだった。
四方八方から集中砲火のよう突き刺さってくる数十、数百の視線。
それなのに、誰も助けてくれない。声すらかけてもらえない。
一方的に奇異と好奇の視線を浴びせられるだけ。

「ぁ、あ・・・・・・ぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

か細い嗚咽は徐々に途切れ、小さくなっていく。
そして、それが完全に途絶えた瞬間、泪は踵を返して駆け出していた。
ワッと声を上げて彼女を取り囲んでいた人垣が崩れる。
未だ混み合った電車の中を泪は走った。
どこに向かっているのか、何のために走り出したのか、自分でも分らない。
ただひたすら、錯乱寸前の焦燥に衝き動かされるがまま、電車の中を前へ前へと強引に駆け抜ける。
脚を止めることなどできなかった。
ピンヒールによって180センチを越え、けたたましいヒール音まで奏でる彼女が脚を止めると、あっという間に視線が集中してくる。
ある者はギョッとした顔で、ある者は信じられないという顔で、そしてまたある者は非難と軽蔑に満ちた顔で。
だが、どんな顔であれ、彼女の非の打ちどころのない完璧な裸身に視線を釘付けにしていた。
だからこそ泪は、車内を駆け続ける。
余計に目立ち、異常さを際立たせる結果になったとしても。
だが、どれほどの想いがあれ、“現実”という名の牢獄を、いつまでも走る続けることなどできはしない。
泪の脚が遂に止まった。
そこは先頭車両、その最前部。
壁一枚挟んだ向こう側は、もう運転席だ。
それ以上進める通路はなく、次の車両に繋がるドアもない。
文字通りの袋小路。
それでも逃げ場を求め、反射的に振り返る泪。
だが、振り返った瞬間、泪は今度こそ完全に動きを止めた。
顔、顔、顔・・・・・・無数の顔が、先頭車両にいる乗客全員の顔が、彼女を注視していた。
座席こそ満員だが、立っている乗客は意外なほど少なくなり、車両の最後尾からでも、泪の姿は丸見えだった。

まるで、圧倒的な視線の集合体が見えない鎖となって、泪の身体を雁字搦めに拘束しているかのようだ。
視線に背を向けることも、その場に泣き崩れることもできない。
全裸のまま立ち尽くす泪を、電車の横揺れが襲った。
周囲からアッという声が上がる中、バランスを崩してよろめいた躯が、閉まったドアに思い切り叩きつけられてしまう。
だが、全く痛みは感じない。
感じられるのは、悲しさと悔しさ、惨めさだけだ。
不思議なことに、涙は一滴も出てこなかった。
喜怒哀楽の感情すら、枯渇してしまったのかと思う。
ドアに叩きつけられた躯がズルズルと滑り落ち、その場にベッタリと座り込んだ。
誰も抱きしめてくれない震える躯を、せめて自分の両腕でと、強く抱きしめる。
死んでしまいたかった。それが無理なら、せめて狂ってしまいたかった。
だが、そんな悲痛なほどの願いも、決して叶えられることはない。
十全な機能を維持した泪の耳と心は、周囲の有様を正確に捉えていた。

「おい、あの女、素っ裸だぜ!!」
「なにあれ!?変態じゃないの!!」
「すげぇ!AVの撮影か!?」

カシャカシャと時折聞こえてくるのは、携帯カメラの撮影音。
汚れの浮き出た床に座り込んだまま、きつく両目を瞑って俯く泪は、もはや身じろぎ一つしなかった。
その間も、電車はいくつもの駅で乗客を吐き出し、新たな乗客を呑み込みつつ走り続ける。
何人もの人々が、泪の傍らを通り過ぎていく―――が、それ以上でもそれ以下でもない。
揶揄や驚嘆、非難に満ちた声、囁き、そして非情なシャッター音だけが彼女に残される。
だが、それも時間と共に間遠くなり・・・・・・遂に消失した。
気がつくと電車は停止し、いつまでたっても走り出そうとはしなかった。
そこは、既に終着駅だった。
周囲に人の気配はまったくなく、声一つ、咳払い一つ聞こえてこない。
完全に無人と化した電車。
それでも、床に座り込んで俯いた泪は、貌を上げることができなかった。
早く逃げるか隠れるかしなければならないことは、分っている。
巡回中の鉄道警察や駅員にでも見つかれば、理由の如何を問わず、確実に拘束されてしまうだろう。
女盗賊団のリーダーという裏稼業まで発覚することはないだろうが、避けなければならないという事実に変わりはない。
だが、そう頭では分っていても、躯はどうしても動かなかった。
むしろ、こんな状況に陥ってもなお、冷静な思考を維持している自分が呪わしい。
散々なまでに彼女を嬲った視線と声が、泪から全ての感情と気力を奪い取っていた。

そんな彼女の耳が、足音を捉えた。
スニーカーではない、革靴。それも、こちらに近づいてくる。
心のどこかで、早く逃げてと誰かが声を枯らして叫んでいる。
だが、その声はあまりにも小さく、遠く、今の泪には届かない。
ゆっくりと近づいてきた足音が、彼女の前で停止する。
泪は、諦観と共にそれを受け入れた。
連行されるのだ。いや、逮捕されてしまうのかもしれない。
だが、それでもいい。
見世物のように視線を浴びせられるだけで、誰にも、何も、してもらえないより、よほど・・・・・・。
そう思った時だった。
剥き出しの肩に、フワッと柔らかい何かがかけられた。
予想もしてなかった出来事に、ズタズタに引き裂かれた心は空回りするばかりで、まともな反応を示すことができない。
恐る恐る“それ”に手を伸ばす。瞳は閉じたまま。
ゆったりとしたデザインの、男物のジャケット。
直前まで、その男が着ていたのだろう。肌と触れ合う内側が、未だほんのりと暖かい。
その温もりが、心地良さが、冷え切った躯に、渇き切った心に、ジワジワと沁み込んでいく・・・・・・。
泪は―――遂に瞳を開いた。
胸が張り裂けてしまうような想いを抱いたまま、ゆっくりと貌を頭上に向けていく。
視線が、一人の男を捉えた。

「その様子じゃ、誰も襲ってくれなかったみたいだな」

そこにあったのは悪魔の顔。
彼女を淫惨の沼地に突き落とした、悪魔である筈の男の顔。
だが、今の泪には違った。

「っっっっ!!!!!!!!!!!!!」

信じられないほどの勢いで立ち上がった泪は―――その勢いのまま剛田に抱きついていた。
腕を首に絡め、完璧な形状を誇る乳房がひしゃげるほど強く、悪魔である筈の男の体を抱きしめる。
先程まで、どうしても流すことができなかった涙が、今は栓を抜いたように、止め処なく溢れ出してきた。

恥辱、屈辱、恐怖、絶望、驚愕、焦燥、混乱、孤独・・・・・・。
それら膨大な感情の果てに、彼女の心に残されたものは一つだけだった。
“空虚”
どこまでも深く、どこまでも暗い虚無の洞穴が泪の心に巣食っていた。
決して感情を失っていたわけではない。
むしろ、心を引き裂かれんばかりの激情が身体中を吹き荒れている。
だが、自責の念と周囲からの視線が、彼女からそれを向けるべき対象を奪った。
結果、泪は全ての感情、本来ならば外部に向かって発散すべき激情まで、自分の心で消化してしまった。
逃避するのでも、目を反らすのでもなく、全て自分の心で呑み干そうとしたのだ。
二人の妹の母親代わりすら務めた彼女の責任感は―――それにすら耐え切った。
だが、その代償として刻まれた心の傷―――空虚―――は、あまりにも深く、大きかった。
泪は温もりを求めた。
全てを晒した躯を抱きしめ、バラバラに砕けた心を繋ぎとめてくれる存在を―――。

泪の中で、鬱積に鬱積を重ね、溜め込みに溜め込み続けた感情が音を立てて爆発した。
決壊したように噴き上がり続ける激情。それによって発せられた衝動、いや渇望はもう止められない。
自らの唇を、ぶつけるように剛田の唇に押し付ける。
昨日は嘔吐感すら覚えたヤニ臭さもアルコールの残り香も、今はまったく気にならなかった。
唇で唇を押し開き、渇望に震える舌を、剛田のそれに絡み付かせる。
剛田が舌で応じると、腰が砕けてしまいそうなほどの甘美感が込み上げてきた。
執念すら感じさせるほど情熱的で、貪るような激しい接吻。

「・・・・・・おねがいッ!・・・・・・おねがいッ!!」

ようやく唇を離し、剛田の分厚い胸板に頬を預けた泪が繰り返し叫んだ。
荒れ狂う激情の濃度と強度が強すぎ、それ以上言葉にならなかった。
これほどまで求めても、何も言ってくれない剛田に、狂ってしまいそうなほどの切なさともどかしさを覚える。

「おねがいっ、抱いてっ!!わたしを・・・・・・抱いてッ!!!!!!」

生々しすぎる感情をそのまま言葉にした瞬間、泪は秘奥の底で、新たな恥蜜がジュワッと溢れてくるのを感じた。
乳首が、ヴァギナが、アヌスが、身体中の粘膜が一斉にそそり立ち、ヒクつくように蠢いてしまう。
もう一瞬たりとて、我慢できなかった。
今すぐに、その太く、力強い両腕でガッチリと抱きしめて欲しかった。
この場に押し倒され、両脚を限界まで開かれて、肉欲に焦がれた媚裂を思い切り貫き通して欲しかった。
男の胸に埋めていた美貌が持ち上がり、正面から剛田を見据えた。
ゾクッとするほど濃厚な色香と憂いに満ちたその貌は、愛欲に濡れた女特有の凄みすら漂わせている。
剛田の顔に浮かんだ色で、泪は確信した。

―――抱かれる、抱いてもらえる。

歓喜と期待で、ココロとカラダが激しく震える。
剛田は、今度こそ泪の願望を裏切らなかった。
いきなり両肩が掴まれ、背にしていたドアに強く躯を押し付けられた。
ピンヒールとガーターストッキングで卑猥に飾られた美脚が乱暴に押し開かれる。

「あぁぁぁ・・・・・・」

その荒々しさすら、今の泪には堪らない。
刹那、剛田の分身ともいうべき野太い肉の凶器が、泪の媚肉を抉った。
限界の限界まで濡れそぼった秘奥は、30センチ級の巨根すら簡単に受け止める。
それだけで、泪は肢体をエビのように仰け反らせ、声もなく絶頂に達した。
気が遠くなるほどのオルガズム、ガクガクと無体な痙攣を繰り返す躯。
だが、まだ満足できない。満足できるはずがない。
剛田の屈強な肉体と閉じたドアの間でサンドイッチにされたまま、泪が片脚を高々と振り上げた。膝が、脇腹に密着するほど高く。
もっと深い結合を、と言葉ではなく行動で求めた泪に、剛田も間髪入れずに応える。
片脚を上げられたことで自由度の増した逞腰を、秘所を砕かんばかりの勢いで突き上げた。

「アオオオオォォォォォォォ!!!!!!!!」

無人の電車内に響き渡る牝獣の咆哮。
子宮口を思い切り痛打され、両腕が、振り上がっていた美脚が、反射的に剛田に絡み付く。
もはや二人に言葉は不要だった。
激しくぶつかり合う腰と腰、赤鮮色の肉襞を晒して喘ぐ媚唇、青筋を立てて力強く律動する怒張、飛び散る汗と愛液、感涙。
求めれば返してくれる、返せばまた与えてくれる。
身も心も、いや、神経線維の一本一本に至るまで繋がっている、結びついていると実感できた。
それは、泪が初めて経験するSEXの凄まじさ。
これまでの人生における性経験など、所詮は児戯でしかなかったことを、心の底から思い知らされる。

「アッ!アフッ!・・・・・・アンンッ!ンゥゥゥゥっ!!!!」

腰を振っているのは剛田だけではなかった。
両腕と片脚で剛田に絡み付く泪も、自ら前後に激しく腰を揺すり、グラインドさせている。
ラテンダンスを思わせる扇情的でリズミカルな動きは、無意識に絶頂を求める彼女の本能に他ならない。
身も世もない嬌声を垂れ流す半開きの紅い唇からは幾筋もの涎が流れ落ち、その下で串刺しにされたもう一つの唇からも、溢れ出した愛液が幾筋もの流れとなって内腿を汚していた。
それでも、火がついたように疼く躯は飽くことなく刺激を求め、より淫らに、より過激に、泪の躯を躍動させる。

「アアッ!!す、吸ってっ!!胸をっ!むねッ、あっ!?アンンンンッッッッ!!!!!」

衝動のまま吼えるように叫ぶと、ブルンブルンと悩ましく弾む剥き出しの乳房に、剛田が正面から喰らいついた。
甘噛みなどではない。ガブリと歯を立てて先端部を口一杯に頬張り、張りのある乳肉を容赦なく咀嚼する。

「んぐッ!!おっ、おおおおッ!!し、死ぬっっっっ!!!!」

電気ショックのような、強烈で獰猛な衝撃が背筋を駆け上がって脳を直撃した。
鞭打たれたように跳ね上がり、ガクガクと痙攣する躯。
痛いのか気持いいのかも良く分らない。
生まれて初めて味わう激痛と快楽のツープラトン。
狂したような悲鳴を上げながらも、剛直を喰い締める泪の膣襞は、ますます潤みと締め付けを強め、ピクピクと蠢動してしまう。
Fカップを誇る泪の美巨乳には、はっきりと剛田の歯型が刻まれていることだろう。

恥じらいも遠慮もない、互いの欲求と衝動をひたすらぶつけ合う、まるでケモノ同士のSEXだ、と快感に痺れた頭で泪は思った。
だが、今はそれでいいとも思う
飼い馴らされた犬が、初めて鎖から解き放たれた時のような開放感が泪を満たしていた。
躯を折れんばかりに強く抱きしめられながら、極太の肉棒で膣内を抉られ、乳房を咀嚼されると、気を失ってしまいそうなほどの快感と共に、全ての苦悩から解放されたような安堵感が込み上げてくる。

今、自分は“母”としてでも“姉”としてでもなく、一人の“女”として男に抱かれている。

そう思うと、至福感すら覚えた。
同時に、もっと“女”として必要とされたい、もっと“女”として満足させたいという欲求が込み上げてくる。
その想いは、刻一刻と肥大化しながら彼女の血肉に充満し、沸騰し、奔騰する。

長年、彼女の“女”を封印してきた“姉”という殻が、砕けた。

純白の柔肌を薄ピンク色に染めて、汗みずくの裸体が淫靡に舞う。悪魔のような男を―――悦ばせるために。
豊満極まりない乳が激しく揺れ、悩ましいエクボを両側に浮かべた美尻が弾み、淫欲の坩堝と化した秘所がギュンと締まる。
ピンヒールが踏みしめる脚元には、愛液が時に滴のように、時に驟雨のように降り撒かれ、濃厚な牝の匂いを充満させる。
男の魂を蕩かすような甘い喘ぎは、時にすすり泣きになり、時にケダモノそのものの咆哮と化した。
既に彼女の頭の中に、無人とはいえ“ここが電車の中である”という事実は完全に失われていた。

そんな時だった。
剛田が一際大きく腰を突き上げ、その衝撃に12センチのピンヒールを履いた脚が思わず爪先立ちになった瞬間―――泪は見た。
仰け反り、震え、喘ぎ、蜜汁を滴らせながらも、泪ははっきりと目撃した。
両腕ですがりついた剛田の首の向こう、そこに立ち竦む、一人の男の姿を。
濃紺の制服に制帽。両手にはめた手袋の白さが眩しい。
その姿は見間違えようがなかった。
鉄道職員、いや、この電車を運転していた運転士。

「アアッ!!アッ・・・・・・あ、ぁぁぁ・・・・・・・・・・・・」

全開の朱唇がそのままの形で凍りつき、全身から絞り出すようだった嬌声からも、急速に勢いと熱気が失われていく。
剛田の激しいピストンに合せてリズミカルに弾ませていた肢体も、伸び上がった姿勢のまま急停止していた。

「やった気づいたのか?
 あの運転手な、さっきからずーーーっと、俺たちを見てたんだぜ」

この狂ったような性交を開始して以来、沈黙を続けていた剛田が遂に口を開いた。
彼が沈黙を保っていたのは、その余裕がなかった訳でも、泪と同じくこの営みに耽溺していた訳でもない。
剛田の目は、泪が背にしているドアの窓に映る運転士の姿をずっと捉えていた。
にもかかわらず、彼はそれを気にするどころか、一切口にしようとはしなかった。
悪辣なる悪魔は待ち続けていたのだ、この瞬間を。
堕ちた美神が、それに気づくのを。

「ぅ、あ・・・・・・・ぁ、あ、ぁぁ・・・・・・」

至福の絶頂から強制的に引きずり下ろされた泪に、言葉はない。
その内心は、この日最高の混乱と焦燥が渦を巻き、脳が破裂せんばかりに激震している。

(見られた・・・・・・見られてた・・・・・・ずっと・・・・・・最初から・・・・・・わたし・・・・・・わたし・・・・・・)

卑猥な格好をさせられるのとも、裸を晒すのとも違う。
彼女にとって、究極の愛の営み―――性行為―――を他人に目撃させるということは、ヒトという生き物が動物ではなく“人間”であり続ける上でのタブーに他ならない。
その秘めやかさたるや、排泄行為を目撃されることにも匹敵する。
それほどの禁忌を、泪は破ってしまった。
混乱が錯乱へと至り、錯乱が更に肉体へと伝播していく。

「・・・・・・ゃ・・・・・・ぃゃ・・・・・・」

ワナワナと震えているのは、ルージュとグロスが無残に剥げ落ちた唇。
唇だけではない。
今や、媚汁にまみれて紅潮した躯全体がプルプルと小刻みに打ち震え、その震えは更に大きくなっていく。

「・・・・・・ぃゃ・・・・・・いや・・・・・・いヤ・・・・・・イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

噴き上がる断末魔の絶叫。
それは、押し潰された魂の放つ断末魔、慟哭に他ならない。

「イヤ、ぃヤっ!・・・・・・放して、放してぇぇぇ!!!!」

泪の両腕が、何度も剛田の分厚い胸板を叩き、殴りつけ、押し返そうとする。
だが、未だ体を密着させたままの剛田は全く動じない。
本業は盗賊とはいえ、体術にも覚えのある泪が本気になれば、巨漢とはいえ男一人を振り払うなど、そう難しいことではない筈だった。
しかし、ショックのあまり我を失っている泪は、ただ無茶苦茶に両腕を振り回しているだけ。
その様も実態も、泣き喚く幼子と何ら変わらない。

「今更カマトトぶってんじゃねぇよ」

半狂乱の泪を悠然と見下ろしつつ、剛田が無造作にグンッと腰を突き上げた。

「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!」

完全に不意を突かれた泪の瞳がグルンと裏返り、仰け反った後頭部が背後のドアを直撃した。
だが、それだけでは済まない。
最深部まで貫通された秘奥から、淫汁が噴水のように迸り、自らの下肢のみならず、剛田のズボンまで派手に汚す。

「イヤイヤ言うわりには、さっき以上にグイグイ締め付けてるじゃねぇか、ええ?」

凶悪な顔面を醜く歪めて、せせら笑う剛田。
事実、激しく潮を噴いた女陰は未だダラダラと愛液を垂れ流し、その粘膜は狂ったようにヒクつき続けている。
それも―――運転士に気付く直前以上に。

「このツユダクぶりはなんだ?ビンビンの乳首はなんだ?
 そのアヘ顔とアクメ声はなんだ?ああっ?
 見られて感じてんだろ?このド変態の淫乱がっ!!」

身も心も繋がりあった恋人同士であれば決して口にされることのない、あけすけで、容赦の無い指摘と嘲笑。
限界を超えた渇望により、つい先程まで、剛田を最愛の人のように錯覚していた泪にとって、それは傷口に塩を塗りたてられる行為にも等しい。
偽りの復活を遂げた美神のココロは、再び地に落ち、無残にも踏み躙られた。
蔑みの言葉を矢継ぎ早に発しながら、機械のような無慈悲さで剛槍を突き上げ続ける剛田。
冷水を浴びせられたように消沈したとはいえ、未だその奥底で官能を燻らせていた熟躯は、一度は逃れた魔淫に再び取り込まれてしまう。
言葉による背徳的感傷と、極太男根の暴力的抽送、それらに煽られるまま、青白く憔悴していた躯全体が、再び悩ましくも妖しい色彩に紅潮していく。

「あうっ!!ん、んんっ!!イヤ・・・・・・ち、ちがう・・・・・・わたし、そんな・・・・・・アンンンッ!!!!」

あられもないヨガリ声の中、それでも必死に拒絶と否定の叫びを上げる泪。
抗し切れない肉欲にノーブルな美貌を蕩かせつつも、どこかでそれを嫌悪している相反した風情が剛田には堪らない。

「違わねぇよ。お前は、見られながら犯られるのが大好きな変態マゾなんだよ。
 ―――おい、にーちゃん」

腰使いを休めないまま、いきなり振り返る剛田。
ギョロリと鋭い目つきで、立ち尽くしたままの運転士を見据える。
派手な柄シャツを身に着けた剛田の姿は、風貌と体格も相まって、“その筋の者”にしか見えない。

「すまねぇーな、大事な電車を汚しちまって。
 最後は、この女に自分の舌で掃除させっから。
 ついでに、このネーちゃんが、どんだけエロい変態女か、タップリ見せてやるよ。
 だから“絶対”そこを動くな―――いや、もうちょっと前に来な」
 
最後の部分は完全な恫喝、そして命令だった。
今にもその場から逃げ出しそうだった気の弱い運転士は、一睨みで剛田の迫力に呑み込まれてしまう。

「お前もそうして欲しいんだよな、“泪”?」

「ヤメてっ!こんなところで、名前を呼ばないでっ!!」

「へへへ・・・・・・まったくマゾ女ってのは、面倒だよな。
 して欲しいことまで、やめてって言っちまうんだから。
 ―――おい、遠慮するなよ、運転手さん。電車の中に入んな」

血相を変えて叫ぶ泪を軽くいなしつつ、再び運転士に鋭い眼光を送ると、送られた方はフラフラと電車の中に足を踏み入れてしまう。
この野郎は絶対に逃げねぇな、そう確信した剛田は、もう二度と振り返ろうとはしなかった。

「さぁ、お待ちかねのショータイムだ。張り切っていこうぜ」

言うや否や、剛田の巨体が動いた。
いきなり身体を低くして、両手で泪の両膝を掴み、左右に開きながら一気に持ち上げる。
全く無駄のない流れるような動きに、泪は抵抗する暇さえ与えられなかった。

「―――ひっ!?」

唇から漏れる驚愕の悲鳴。
泪の躯は、両脚をM字型に開いたまま、完全に宙に浮いていた。
ビショ濡れの秘部を完全に曝け出した破廉恥ポーズ。
せめて、両手で大切な部分を隠したいが、悪辣極まりない剛田は、それを許さない。
泪を下から持ち上げた際、自らは数歩後退していたのだ。
背にしていたドアから引き離された彼女の上半身は支えを失い、バランスを保つには、前か後に手を伸ばす必要に迫られた。
つまり、離れてしまったドアに腕を伸ばすか、剛田にすがり付くかの二者択一。
背後に手を伸ばせば、丸裸の肢体を見せ付けるような仰け反った姿勢になるだけでなく、剛田が更に後退すれば、今度こそ進退窮まってしまう。
であれば―――。

「ほぉーれ、駅弁スタイルの一丁上がり」

嘲笑うような剛田の声が、結果を証明していた。
泪は咄嗟に上肢を前傾させ、剛田の太い首に両腕を回していた。
悔しさに唇を噛み締める暇も無く、ポーズ故に全開となった秘唇に思い切り叩き込まれる怒張。

「アグゥゥウウゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!!」

剛田の力のみならず、自身の体重まで加わった運動エネルギー、そして腰と腰との密着度の増大が、秘奥への痛撃をより苛烈なものにした。
ゴリリッと子宮口を抉りこまれるような、痛みとも快感ともつかない激感に、泪は顎を突き出し、背中を弓のように反らせて悶絶する。

「覚悟しな、泪ネーチャンよ。
 自分がどれほどエロい女か、イヤってほど思い知らせてやる」

どこまでも厳かに、どこまでも無慈悲に宣言すると、剛田は遂に本格的な高速ピストンに突入した。
単純に早いだけではない。
腰の上下運動だけでなく、泪を抱え上げた両腕の力すら総動員した渾身のピストン。
一突き一突きが、まるでへヴィー級ボクサーのアッパーカットのように深く、重い。
内臓まで突き抜けるような勢いで子宮が滅多打ちにされ、充血した膣襞が大きくエラ張った亀頭に擦り上げられる。
その凄まじいばかりの感覚は、生娘ならともかく、男の味を知る熟れた女体に耐えられるものではなかった。

「ひいいッ!!・・・・・・あひぃぃぃ!!・・・・・・あ、あォアアっ!!・・・・・・ォアァァァ!!!!」

落城の刻を迎えた堅城の悲哀そのままに、炎上し、崩壊していく女体。
血を吐くような声で絶叫しながら、時には声すら出せないまま、抱え上げられた裸体をガクガクと痙攣させて生々しいオルガズムを晒す。
その凄惨な姿を、痴呆じみた表情で見つめているのは運転士。
剛田と泪の真後ろに立っている彼からは、結合部分そのものは見えない。
しかし、剛田の巨体の両側からニョッキリと突き出た長く美しい二本の脚、ガーターストッキングで飾り立てられた泪の美脚が、履いたピンヒールを吹き飛ばさんばかりの勢いで無茶苦茶に跳ね回り、ビクンビクンと打ち震える様は、あまりにも鮮烈だった。
剛田の後頭部越しに見える女の貌は、彼がこれまで見たどんな映画女優よりも、彼がこれまで通ったどのクラブのホステスよりも美しく、高貴なほどの気品に満ちている。
だがそれ故に、豊かな黒髪を振り乱し、涎すら垂らして悶絶するその痴態は、あまりにも淫靡で、魔性じみた妖艶さをムンムンと発散していた。

「ぃ、いやァああっ!!・・・・・ヒッ!?ひぃぃぃぃ!!・・・・・・んんっ、イヤぁぁぁぁ!!!!」

「イグッ!!イッ、グゥゥうううッッッッ!!!!!!!!ぁ・・・・・・はあぁ、んっ、んあああぁぁぁぁ!!!!!」

「も、もうっ!!・・・・・・やめ、て・・・・・・ゃ、あ、ぃやあぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

剛田の一突きごとに、絡み合う二人の脚元に滴り落ちる淫蜜、弾ける淫水。
次から次へと心身を貫いていく肉の極み、絶頂、アクメ、オルガズム。
激しすぎる絶頂の連続に、豊乳が、尻肉が、太腿が、全身の熟肉が、狂ったように身悶える。
あまりに短い周期の、あまりに強烈な肉衝動の奔流に、ココロとカラダから悲鳴が止まらない。

「まったく、呆れるくらいのイキっぷりだぜ。
 ま、無理もねぇか。妹の“愛ちゃん”も似たようなもんだったし」

「―――えっ!?」

呼吸すら満足に維持できない絶頂感の連なりに、殆ど恐慌状態の泪であったが、妹の名前だけははっきりと耳に届いた。
仰け反ったままグラグラと危なげに揺れていた頭を、それでも懸命に起こして剛田を見据える。
彼女は気付いていない。
剛田が“意図的に”手と腰の動きを緩めていることを。

「ああ。最初に教室で犯った時は、痛い痛いってピーピー泣きじゃくってたくせに
 夜中の公園に連れ出して犯ってみりゃ、途端にアヘアヘ言い出した。
 へっへっへ、血は争えねぇよなぁ?泪ねーちゃんよ。
 お前ら姉妹には、露出狂の変態マゾの血が流れてるみたいだぜ」

最愛の肉親がレイプされた実相、そのあまりにムゴく、あけすけな描写に、泪が唖然とする。
だが次の瞬間、これまでとは打って変わった口調で反駁した。

「こ、この・・・・・・ヒトでなしっ!!・・・・・・あ!?アグウゥゥゥッ!!」

泪が叫び終わるのを待ち構えていたように、またしても膣道深く抉り抜く剛槍。
珠の汗が流れ落ちる背筋が弓のようにギュンとしなり、剥き出しのFカップがブルンと縦に大きく弾む。
泪は反射的に、剛田の首に回した腕に力を込めていた。
皮肉なことにその様は、淫情に感極まった女が自分の全てを男に投げ出した姿そのものだ。
悔しさと惨めさ、そして自責の念が泪を責め苛む。
太い首に絡めた両手を、厚い胸板に預けた頬を、引き離したい。
しかし、何かにすがりついていなければ、自分を保てないところにまで彼女は追い込まれている。
それらを失ってもなお、この凄惨な性拷問に耐え続けられる自信は、もはや泪には無かった。

「あぁ、俺はヒトでなしの鬼畜生さ。
 だがな、そんな妹をレイプした鬼畜生を相手に、アヘアヘ鳴いてるお前は何だ?」

“尋問”は続いていた。
間断なく腰を揺さぶり、M字開脚のまま抱えた泪の肢体をユサユサと煽りながら、淫情色に染まった美貌を執拗に詰問する。

「ンンッ、くぅぅ・・・・・・そ、それ、は・・・・・・」

答えられなかった。
答えようとする度に、剛田は泪の秘奥を貫いた男根の深度を強めてくる。
しかし、たとえそれが無かったとしても、今の泪には答えられないかもしれない。

もはや自分に―――“姉である”と声を大にして答える資格があるのか。

そんな自虐的な想いが、泪の心身を萎縮させ、答えようとする声を、心を、一層弱々しいものにしてしまう。
砕け散ってしまった“姉”という名の心の殻。
だがそれは、断片となりながらも泪の心に未だ留まっていた。
しかし、剛田はそれすら許さない。
彼女の姉としての矜持、誇りを砕くだけでは飽き足らず、粉微塵にまで磨り潰そうとしているかのように、鋭利な言葉の奔流で泪の心を責め立て続ける。

「へへっ、言ってみろよ。
 ひーひーヨガリながら、自分でケツ振ってるお前は何様なんだ?
 ええ?言ってみろよ、来生泪!!姉貴気取りの淫売がっ!!
 おらっ!!言えッ!!言えよっ!!おらっ!!」

回復不能なまでに傷ついた心の奥底をメッタ刺しにするような罵声の数々。
そして、膣孔を激しくブチ抜き、肉襞を擦り上げてくる男根。
ココロとカラダ、二方向からの責めは、まるで巨大な万力のように来生泪という女の根幹を締め上げていく。

「あふうっ!!ううっ!!あ、あひっっっ!!ングゥうぅぅぅぅ!!!!!!」

言い返そうとすれば頭ごなしに否定され、拒もうとすれば一層の力と深度で肉奥を抉られる。
肉体的にも精神的にも出口を封じられた泪の中で、荒れ狂う感情と感覚は膨れ上がる一方だ。
苦痛と快感、自責と諦観、否定と肯定、自虐と嗜虐。
相反する感情と感覚、その巨大な集合体が彼女の心身に充満し、濃縮し、錯綜する。
そして遂に―――来生泪という“女”の限界をも越える。

(ダメ・・・・・・敵わない・・・・・・。
 この男には・・・・・・ココロもカラダも・・・・・・絶対に敵わない・・・・・・)

それは敗北宣言に他ならない。
堕ちた美神は―――全ての苦悩をかなぐり捨て、魔淫にその高貴なる精神と肉体を委ねることを選択した。

自ら迎え腰になり、狂ったようにヨガり始める泪。
ムッチリと肉付いた熟尻を激しくグラインドさせ、巨根を膣奥まで導こうと肉襞を引き締める。
豊かな黒髪を振り乱し、蕩けた表情のままに涎を垂らしてヨガり狂う。
その変貌ぶりを唖然と眺めている運転士の視線すら、もはや全く気にならない。

(・・・・・・せめて・・・・・・瞳・・・・・・あなたは、あなただけは・・・・・・)

それは、“一人の女”ではなく“一匹の牝”と化した彼女の、最後の願い。
その心中で、最後の断片すら消え失せようとしている“姉”の、最後の願い。

だが、“姉”は知らない。

邪悪に満ちた魔王の触手はこの時、悲痛な願いを向けた“もう一人の妹”にまで伸ばされようとしていたことを・・・・・・。


 


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