魔界の階級について -デミトリの地位の謎-
 

時々デミトリのことを伯爵という人がいる。おそらく嬉野氏による小説版ヴァンパイアセイヴァーの愛読者であろう。
だが吸血鬼はみな伯爵だろうか? デミトリがドラキュラ系の吸血鬼であることは認めるが、ドラキュラが伯爵だからとデミトリも伯爵扱いするのはカプコンに失礼であろう。
デミトリはデミトリだ、と私は思う。
嬉野氏の描くモリガンがデミトリのことを伯爵と呼ぶ理由は彼のヴァンパイアセイヴァー小説では明らかになっていない。
明らかにする事などできようもない。その前提である魔界貴族の貴族制度がどうなっているかが、カプコンの公式設定からは誰にもわからないからだ。
ついでにいえば、嬉野氏は「なぜデミトリはベリオール崩御後のモリガンをクイーン・モリガンとかモリガン陛下とか尊称をつけて呼ばないのか。」という疑問にも明確な答えを用意していない。
身分の高い方だけが尊称をつけて相手を呼んでいるのはかなり変だ。
そもそも、デミトリの魔界貴族としての身分はベリオールによって剥奪されているはずで、当のアーンスランド家の姫が追放されて何の地位も持たないデミトリを「伯爵」とか呼ぶのは痛烈な皮肉としか思えない。リストラされて他の会社に移った元専務を前の会社の社長令嬢が「専務」と呼ぶように嫌みだ。
もっとも敬語と身分の謎はほぼ全てのヴァンパイアのコミックスに共通する。「モリガンの側はタメ口だが、デミトリの側は敬語」等という場面があったのは、若宮弘明の『ヴァンパイア』くらいのものであろう。これについては原作(ゲーム)からして「ほう、おまえがベリオールの代わりか?」等と敬語抜きで話しているので、コミカライズ担当者の皆様がそれに習うのも当然と言えば当然である。

では魔界追放以前のデミトリとベリオールの関係はどうだったのだろうか。
デミトリはベリオールの臣下だったのか?
この文章では魔界の貴族制度に焦点をあてたい。

魔界貴族の格付けについて

「魔界生物の階級」

 以下に、単純ではあるが魔力による階級分類を示してみる。

(1) Class S(Lord)

 魔界の頂点に君臨する実力の持ち主たち。
 魔界三大貴族の当主たち、すなわち

ベリオール アーンスランド
ガルナン ヴォシュタル
ジェダ ドーマ
 
 の三人のことである。
 この中でもベリオールは、S+級とされ、他の二者より飛び抜けた存在となっている。
 
(2) Class A(Noble)

 魔界貴族と呼ばれる階級の当主たちを主に指す。
 デミトリもA級魔界貴族の一員である(ただし魔界追放のあとはB+級に格下げとなってしまった)。
 彼らは魔界七貴族と呼ばれ、虎視眈々とS級三大貴族の動向をうかがっている。
 ・レペ家・・・当主:パーシモン・デ・レペ(male)
 人間界への扉のあった地、ギララ・ギラの領主。
 魔界ではアーンスランドにつぐ古参。
 ・マキシモフ家・・・当主:Demitri Maximov(male)
 魔王ベリオールに挑んだ若き野心家。
 戦いに敗れ人間界に追放され、100年後に蘇る。
 ・ハートランド家・・・当主:グレゴリオ・ハートランド(male)
 魔界一の色男。日々女をはべらし享楽にふける。腹心メジーナは彼の強力な女性参謀にして絶対隷属者。
 ・クロイツ家・・・当主:ゼル・クロイツ(male)
 ハートランド家と対立する特攻貴族。乱暴者。
 もっとも人型とかけ離れた外見(翼竜wyvern)を持つ。
 ・ダレイ家・・・当主:トーラス・ダレイ(male?)
 魔界のコレクター。いろいろなアイテムを所有する。「般若(Hannya)」「鬼炎(Kien)」ももとは彼の所有物だったらしい。
 ・ギルマン家・・・当主:シエラ・ド・ギルマン(female)
 魔界哲学者。著書「闇の開闢(水沢註 かいびゃく。物事のはじまり)」「私と魔界」など多数。78か国語を話し、
1400種の魔法を操る。
 ・フネチカ家・・・当主:当主兼名誉師範代エド・フネチカ(male)
 格闘家集団。当主のエドは魔拳法666段の腕前。精神性を重んじるあまり実戦性に欠けるきらいあり。
*なお「帝王」オゾムのランクはA+級といったところ。

(3)Class B+(Soldier)
 特殊能力を有し、標準以上の魔力を行使する「戦士」たち。「ダークストーカーズ」と総称される階級である。その数は
魔界全土に約一万。
*ゲームに登場するプレイヤー・キャラの実力はこの階級付近

(4) Class B(Citizen)
ClassB+に比べて実力的に劣る階級。魔界の住人のほとんどがこの階級に属する。総数約600万。

(5)Class C(Slave)
  Class A,Bの労働力、または家畜として扱われている奴隷階級。彼らの存在なくして魔界の経済は成り立たない。誤って
魔界に紛れ込んだ人間もおり、この階級に分類されている。その数およそ、12億。

(6) Class D(Beast)
 下等な魔界獣が位置する階級。人型の魔界生物以外をこう総称する。下等とはいえ人語を解する者もおり、それぞれの社
会を形成している。経済力でClass Bより上位にある者もいるくらいだ。また、なかにはClass B+に相当する魔力を持つ魔
界獣も2000体以上確認されている。「般若」「鬼炎」らもこの階級に分類されるが、Class B+に匹敵する力をもつ。
その種類は300億を超えるといわれている。

(「all about ヴァンパイアセイヴァー」より)

公式設定で明確なのはこの順位づけだけである。デミトリが追放後格下げされているという事は、単純に強さだけを表しているだけではないのだろう。(幽遊白書の魔界が純粋に強さだけでこれとよく似た格付けをしていたと思う。そういえば、あの話も王が三人だったな)
ということはデミトリはマキシモフ伯爵とかの爵位ではなく、デミトリ・クラス・A・マキシモフとか呼ばれるべきで、魔界ではそれは強き者に対する尊称であると解釈するべきだろうか。

明治時代の日本の爵位は上から、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵となり、五爵からなる貴族の位階自体はイギリスの貴族制度を模倣したものである。爵位の名は、中国の爵位(王・公・候・伯・子・男)を模倣している。

中国を参考にするなら支配者が皇帝(ベリオール)、王がジェダとガルナン、デミトリら七貴族が公爵であろう。
あるいは皇帝が不在で三大貴族が三人の王(霊王・冥王・魔王)というストレートな受け取り方でいいのかもしれない。帝王をオゾムが自称しているというのは、皇帝の不在を意味すると受け取るべきか。
階級のわけかたが大雑把な魔界の場合、王の下がいきなり伯爵でその下は騎士とかいう可能性もないではない。貴族が七貴族(と三大貴族)しかいのなら、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の爵位をあてはめることには無理がある。
だがここでは上から当てはめて七貴族の地位は公爵相当であると解釈しよう。
(でも魔界公爵というとアスタロトとかベルゼブブとかを思い出すな。彼らは魔王に次ぐ者なのでそう呼ばれるのだが)
では七大貴族時代のデミトリに対する尊称は?
「デミトリ閣下」……。さすがに彼がそう呼ばれている作品は見なかった気がする。

領地について

 彼はこうした強大な力を持ちながら、魔界の全権掌握や完全支配には興
味を示さなかった。
 これは無欲という意味ではない。わざわざ征服せずとも、最強の彼にと
ってはすでに魔界は己自身も同然であった。
 とはいえ、彼が名実ともに「魔界の支配者」であることは疑う余地がな
く、その地位を狙う魔界貴族同士の権力抗争は絶えることがない。

(「all about ヴァンパイアセイヴァー」より)

この記述によるとベリオールは魔界全ての土地を支配していない、となるとガルナンやジェダはベリオールの臣下ではないのだろうか?
公式設定の記述は曖昧だが、ベリオール・ガルナン・ジェダはそれぞれ独立した支配者であると見た方がいいだろう。

では七貴族とは何者か?

 ・レペ家・・・当主:パーシモン・デ・レペ(male)
 人間界への扉のあった地、ギララ・ギラの領主。
 魔界ではアーンスランドにつぐ古参。


という説明からわかるように、七貴族もそれぞれ彼らの領地を持つ。彼らは三大貴族それぞれの臣下ではなく、占有する領地が小さいだけで、独立した存在なのか。それとも三大貴族の臣下として彼らの代理として領地を治めている存在なのか(江戸時代の藩主等に近い立場?)
前者だとするとデミトリの地位を公爵相当とするのは微妙な気がするが。その場合はデミトリは反逆者ではない。
もちろん、「マキシモフ家は外臣としてアーンスランド家に服従していたが、デミトリの領土は魔王の直轄領ではなかった」とかいう緩やかな服従形態も考えられるわけで、ここから先は推測しようがない。

ただ、カプコンから発売された食器に記されている「アーンスランド家の紋章」には小さな星が七つ記されている。この星の数は偶然なのか、それともアメリカ国旗の星の数のように、アーンスランド家の領地にある州や主だった家臣の数を意味しているのか? そうだとすると七貴族は全員アーンスランド家の家臣という可能性が高い。

そうそう。デミトリの人間界での領土って人間の目から見れば不法占拠だと考えて良いのかな?

参考サイト 高速電車で行こう

 

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