多くの日本人の狼のイメージは、シートン動物誌の狼王ロボに大きく影響されているのではないだろうか。
アメリカ西部の大平原で知らないものはない程恐れられた狼王ロボ。牛を殺された牧場主に頼まれて、シートンは狼狩りにやってくる。
シートンの側はロボを捕まえるべくいろいろと罠を仕掛けるが、みなロボに見破られてしまう。
足跡を観察してシートンは「ロボではなくロボの妻のブランカなら捕まるかもしれない」とブランカを捕まえるための罠を用意する。そして狙い通りブランカは罠にかかる。ブランカをシートン達は殺してその死体を引きずり土にブランカの匂いをつけ、その先に罠を用意。妻を探し求めるロボはいつもの用心深さも忘れ、その罠にかかり生け捕りにされる。翌朝、ロボはつながれたままで冷たくなっていた。
狼は虎のように発情期に限って一夫一婦制をとるようなものでもなく、ライオンのように一夫多妻制でもありません。生涯を通しての一夫一婦制です。狼は、親戚兄妹で群を形成し、助け合って生きていくのです。
交尾を終えた2頭は仲むつまじく一生を共にするのです。
生殖交尾大全 中川志郎監修 同文書院
プレイリーハタネズミも生涯を特定の相手と過ごす。研究によると交尾の際にある種の化学物質が交尾の際に脳内に分泌され、相手を特別視するようになるそうだ。人間の脳にもこの物質はあるという。
愛情を永続的なものにする化学物質である。
(人間が永遠の愛と言う時、多くの場合それは別れても愛し続ける愛を差すこともあるので、とりあえず生涯の愛という)
狼は「初恋の人と結ばれて一生一緒に助け合って生きる」という特質を持った個体が生存競争に勝ち残り続けてきた種族である。
その狼から作られた犬が「忠実な家族の一員」として人間に生活を共にする動物として受け入れられてきたのもまた自然なことだろう。
そういう狼の特質を知ると、平井和正の「狼男だよ」のプレイボーイな狼男は生物学的な狼の特徴とは違うな等と思ってしまうが。
赤ずきんの童話でも「狼」は強姦者、誘惑者として扱われているが、その生き物が異種族を獲物として狩ることと、同種族と深い情愛を育むことはわけて考えるべきだろう。
で、本題だが我らがガロン君の父親についての公式設定はそういう意味でとっても狼らしい。
バラバ・クロイツ
「ウルフロード」の称号を持つワーウルフの戦士であり、クロイツ家の近衛兵隊長である。
その隻眼にたたえた光は、幾たびの死線をくぐり抜けた者独特のものだった。
彼は一度、とある事件がきっかけで人間界に20数年間放浪したことがある。その時の記憶を彼はほとんど忘れてしまった
が、傷つき倒れた彼を介護してくれた人間の女性のことはかすかに覚えていた。
(中略)
しかし......魔界に戻って数十年後、彼の姿は忽然と消える。
クロイツ家の主ゼルは臣下に命じ数年間にわたって彼を探し続けたが、結局バラバは見つからなかった。
風説によると、バラバは再び人間界に渡り、かの女性と再会し、結ばれたと言われている。もちろん、その真相を知る者はいない。(以上、カプコンのヴァンパイアセイヴァーの公式設定より)
どうやらガロンの父親は一緒に過ごした女性のことが忘れられず、人間界に戻ったらしい。そこら辺のことはぼかされているが、非常に女性に対して一途な男のようだ。
ただ、20数年間の放浪の初め頃にその女性と知り合ったのなら、数十年後の再会時に最低でも相手は60歳を越えていると思うので、老後を共にするための再会にしかならないような気が。
20数年の最後の方ならまあ残された時間はそこそこあるが、その女性の子と思われるガロンが孤児として育っているところを見ると、その女性がバラバのいない間、上手く子供を育てることが出来なかったことは確かである(子供とは死別にしろ生別にしろ)。ということは妊娠中あるいは子供が幼い時に男と別れた彼女になにがしかの不幸があったのだろう。また彼女にとっては子供と別れることも不幸な出来事だったと思われる。
記憶がおぼろげなところから察するに、バラバの方にも何かあったようだが、彼をライバル視するデミトリにでも重傷を負わされたのだろうか。
バラバが数十年後に人間界に戻った時、おそらく色々な意味で彼は遅かったのではないか。彼の子も愛した女性もそれぞれに不幸になっていたのである。
とりあえず年頃となったガロンが素敵な女性と巡り会えて、生涯幸せに過ごせることを祈りたいと思う(無理)。
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