『キン肉マン』のタッグ編の完璧超人とは、宇宙から降りてきて、世界を滅ぼそうとする超人の一団です。この「空から災いがもたらされる」という話を、今回は語ります。
ゴゴゴゴ
「こ…この音は 空からだ…空から なにか こちらに むかって 接近しているぞ!」
『キン肉マン (12)』文庫版
このタッグ編の完璧超人が天空から降りてくるイメージは、欧米文学やアメリカ映画やアメコミに由来するのではないでしょうか。
キリスト教圏の作品には、『新約聖書』の黙示録等を背景に「天から神の使いが来る」や「空から滅びがもたらされる」という場面がしばしば見られます。個人的にミケランジェロの描いた最後の審判を告げるらっぱを吹く天使たちは、完璧超人が空から降りてくる場面に似ていると思います。天使が筋骨逞しいから、でしょうか。
『旧約聖書』を読んでいると、人間の敵は悪魔ではなく、むしろ、天使です。
創世記のソドムの街の話は有名ですね。
その街には悪徳が栄えていたので、神は視察のために男の天使二人を使わした。
御使いが、ソドムの街に来ると、ロトの一家だけが彼らを歓迎し、家に泊めた。すると、街の男達が彼らを輪姦したいから、よこせと押し掛けてきた。
ロトは自分には、嫁に行っていない娘が二人ほどいる、彼女らを代わりに差し出そうと言ったが、彼らは聞き入れなかった。
天使達はロトを家に引き入れ、この街はやがて滅ぶから、家族を連れて後ろを振り向かずに街から山の方に逃げろと言いました。
ロトはすでに結婚している娘の婿達に、逃げようと言ったが、彼らは信じなかったので、妻とまだ結婚していない娘二人を連れて逃げた。
そして、天から降る炎で街は焼き付くされた。
妻は途中で振り返ったので、塩の柱になった。父親と娘二人は逃れた。
このソドムがソドミィ(同性愛)の語源です。ちなみに、『闘将!! 拉麺男』の「狂悪の子どもたち!!の巻」の悪党二人の名前は、ソドムとゴモラです。
まあ、このサイト的に重要なことは、同性愛ではなくて、「天使が天から火を降らせて、腐りきった街を滅ぼした」というところです。
聖書には、洪水によって世界が滅ぶという、ノアの箱船パターンの他に、こういう天から降る火によって世界が滅ぶというパターンがあります。「天からの火」は、自然現象的には火山や隕石の話でしょう。
ちなみに、日本神話に「天の神が火を降らせて、腐った世界を滅ぼす」というのは、ありません。
天から火を降らす神である、菅原道真は、自分に害をなした者以外には、祟っていません。
『キン肉マン』の少し前の時代は、「神の使いが天から来る」を「宇宙人来る」と、置き換えたりするような話が多かったものです。
小説では、『地球幼年期の終わり』(1969年)、映画では、『未知との遭遇』(1977年)などが、そうでしょう。
宇宙人が空から続々とやってくる、インベーダーゲーム(これ)は、1978年に大ヒットしたゲームです。
1983年には、キース・へリングがピラミッドがUFOに襲われる(降りてきている?)絵を描いていました。宇宙人と古代遺跡は、時代の流行りでした。
その絵
『キン肉マン』の頃は、子供達の間で「ノストラダムスの大予言」が流行っていました。それは、こういう予言です。解釈と一緒に、引用しましょう。
『諸世紀』の第十巻七二篇にその詩が出てくる。直訳すれば、それはこんな詩である。
一九九九の年、七の月
空から恐怖の大王が降ってくる
アンゴルモアの大王を復活させるために
その前後の期間、マルスは幸福の名のもとに支配するだろう(中略)
ただ、ここで言えるのは、それがなんであろうとも、一九九九年の七月、何か途方もない災厄が世界におそいかかってくるらしいということである。
『ノストラダムスの大予言 -迫りくる1999年7の月、人類滅亡の日-』五島勉 1973年
いつかなにか恐ろしいものが、空から降りてくるというのは、この当時の日本では「よくあるファンタジー」だったのです。
普遍的なものでもあるとはいえ、1980年代の日本に「天からの襲来」というイメージが強くあったのは、「戦後」だったからでしょう。東京や大阪の空襲、広島や長崎の原爆。我々日本人は、「空からの火」をその数十年前に体験したばっかりで、小学生だって、街中を炎が焼いたことは知っています。
199X年、世界は核の炎に包まれた! が、『北斗の拳』の有名な書き出しです。
『キン肉マン』では、主人公がこの大地と日本の古代遺跡の力で、空から降りてきた侵略者を打ち破るんですね。神話は常に、自分達の民族万歳なものです。『キン肉マン』は、こういう点がきっと、神話的なのでしょう。