あまり知られていないゆでたまご先生の作品ですが、この作品に登場するふたつの技について、今回は語りたいです。
その技とは、パンツドライバーと、人間ドリルです。
パンツドライバーはそのままの名前で、人間ドリルは、ボーン・コールドのナスティ・ギムレットとして、『キン肉マンII世』でも、使われました。
パンツドライバーは『トータルファイターK (2)』(5話目)で主人公のカオが披露する技です。トータルファイターKの連載は、1993年から1994年ぐらいです。1997年のマッスルリターンズで、キン肉マンが使うよりも、こちらが早いのです。
この当時、学生プロレスのブームがあり、学生プロレスが後楽園ホールで行われたりしていました。パンツドライバーの使い手である、ブランコ・オギーソ選手が活躍していました。男色ドライバーとして男色ディーノが使うのは、もう少し後です。
残念ながら、学生プロレスの選手が、最初にパンツドライバーを披露したのが1992年以前であることを証明する写真や映像は、手元にありません。ですが、ブームだった学生プロレスにゆで先生が注目した可能性はあるでしょう。
人間ドリルは、7話目に登場します。
千葉県の山室考治くんのアイデアで、『トータルファイターK
(2)』の132ページにお葉書が載っています。
「このわざはベルトを足にまき ドリルになって相手をさす」(はがきの原文そのまま)
それでこの技に似た技が、1994年7月発売の格闘ゲームの『ヴァンパイア』に存在します。
ベルト状になった皮を腕に巻いて、パンチする技です。
モリガンの立ち中パンチ、と言えば、もしかして思い出す方が、いらっしゃるかもしれません。ちなみにこのゲームには、同じキャラクターが、ドリルキックする技もあります。
投稿から採用までの時間もあるでしょうから、山室考治くんがゲーセンで、『ヴァンパイア』をやってから、お葉書を送って、それを見てゆで先生が描くというのでは、『トータルファイターK』の連載が終わってしまう頃に、人間ドリルが登場するでしょう。
カプコンの開発者が『トータルファイターK』を読んだ可能性は、結構高いと思います。なぜなら、この当時のデラックスボンボンには、カプコンのゲームである「ロックマン」の漫画化作品が連載されていたのです。自社に関する記事を読もうとして、ついでにカオも読んじゃったんじゃないかと。
まあ、これ位だったら、格闘ゲームに、当時連載されていた漫画の技がちょっと、出て来るという、ありふれた話です。
それに、カプコンの件に関しては、「ゆで先生が先に相手をまねた」という事情があります。『トータルファイターK』に登場する、腕が伸びるインド人は、どう見ても『ストリートファイターII』のダルシムのパロディ。そして、ダルシムはたぶんピッコロさんの影響を受けています。
ゆで先生としては、掲載誌にあわせたつもりでもあるのでしょうが。
しかし、「吸血鬼や狼男、ミイラ男などのモンスターが闘う」のが特徴の、『ヴァンパイア』というゲームの方向性を決めたのが、この「ドリルパンチ」だったようなのです。
安田 朗 昔、ゲーメストさんのほうで誰か言ってたんですけど、「モリガンの手がドリルになったので、もう何をしてもいいんだってみんなが思った」って。
一同 (笑)
安田 朗 モリガンでさえそんなことするんだから、このキャラもっと変だからもっといろいろやっちゃっていいよねっていう発想が出てきましたね。そういうきっかけみたいなのはありますね。
『ヴァンパイア セイヴァー ファンブック』新声社
そして「ヴァンパイア」は、キャラが自由自在に変形し、変身するのが売りの、格闘ゲームになりました。この「人間でないものだけに可能な闘い」を追求した、個性的なゲームはかなり売れました。『キン肉マン』の超人もそうですが、「人間以上」や「変身」は人類永遠のロマンです。
『キン肉マンマッスルグランプリ MAX』の、キャラクターが一瞬で変身、変形するという、スピーディなシステムは、おそらくこの「ヴァンパイア」をお手本にしています。
サンシャインやチェック・メイトのような変身するキャラクターを使うと、目にとまらないような速度で、変身、変形し、元に戻るといった技がいくつかあります。
原作の漫画では、チェックは一瞬で変身しません。アニメでもそうです。プロレスゲームの延長にある、『キン肉マン
ジェネレーションズ』では、時間をかけて変身しています。
つまり、「一瞬に変身し、元に戻る」は、『キン肉マンマッスルグランプリ MAX』のみの演出です。
『キン肉マンマッスルグランプリ MAX』の開発者の誰もが、ヴァンパイアを知らない、そんなことはありえません。これはもし、「演出面で過去の名作を参考にしました」と言い切ったとしても、むしろ誉められるべき話です。
簡単に言って、こういう「超人的存在の変形格闘」のアイデアの流れが、存在するのではないかと思うのです。
ストリートファイター2
↓
トータルファイターK
↓
ヴァンパイア
↓
キン肉マンマッスルグランプリ
ちなみにカプコンは、大阪の会社です。アイデア重視のノリが、ゆで作品と似通っていたのかもしれません。
著作権法は、アイデアを、保護しません。
娯楽作品の世界は、パクりパクられてできあがった、豊かな土壌の上に、派手な花、名もなき花を咲かすということですね。
『トータルファイターK』は、バカしか売りがない作品であり、漫画として売れなかったのも当然と思われる作品ではありますが、その「バカ」は「売りになるアイデア」であり、「思い切ったことをやる勇気」だったのかもしれません。