ブロッケンJr考

ブロッケンJrについて、思いついたままにつらつらと。今回は『キン肉マン』限定です。

名前について

ブロッケン【Brocken】
ドイツ中央部、ハルツ山地の最高峰。標高1142メートル。魔女たちが集まるという伝説がある。
ブロッケン‐げんしょう【ブロッケン現象】
《ブロッケン山でよく見られるところから》「グローリー」に同じ。ブロッケンの妖怪ともいう。

参考 Yahoo!辞書
ブロッケン現象とグリーンフラッシュ ブロッケン現象やブロッケン山について紹介したサイトです。
ブロッケン山は、「魔女の山」として、また「ブロッケン現象」で有名な山です。ゆでたまご先生的には、「魔女の山」より「ブロッケン現象」ではないかと思います。

容姿について

ナチ親衛隊の制服そのままです。フランスでキン肉マンのアニメが放映中止になったのも頷けるという位、そのまんまです。父親のブロッケンマンは黒服、ブロッケンJrは灰緑色の服です。ベタ塗りとトーンから判断しました。

軽くデザイン上のポイントだけ引用しましょう。これで色やバッジなどの細部まで忠実再現してしまった、ゆでたまご先生のこだわりがおわかりいただけます。

1 (親衛隊は)大戦開戦直前に陸軍と同様の「灰緑色の制服」を採用した。

2 「交叉する骨の上に髑髏」で知られる「Totenkopf(髑髏)の徽章」は、一見海賊の旗印にも似ているが、元々ドイツでは伝統的な徽章で、プロイセン王国時代の騎兵の徽章が起源とも言われている。「骨になっても祖国のために戦う」という意味があると言われている。

3 1935年から軍服と軍帽に主権紋章の鷲章が付けられる。

参考 親衛隊 (ナチス) - Wikipedia 軍服 (ドイツ) - Wikipedia
画像はWikipediaのナチ親衛隊(Allgemeine SS)の制服親衛隊特務部隊の制服を参照

戦後は「ナチス=悪の組織」というイメージが、日本の大衆にも広がり、アニメや漫画の悪役がナチスの制服やそれに似た服を、よく着ていました。

アニメ以外の場でも、権力を握った無慈悲なエリートという、役柄の表現のために使われることの多い制服です。「残酷な上下関係」で上になる方に似合う服です。

しかしブロッケンJrは選民思想と無縁です。エリートの家柄のような描写はされていますが、一般市民(ラッカ星人)を守るために闘う、爽やかな正義感を持ち合わせています。こういうナチス軍人にしては、良心的なキャラ付けが、余計フランス人の怒りを買ったようです。

物語と役柄について

宇宙野武士編

まずは、なぜ、ブロッケンマンの息子のブロッケンJrが登場したのかということについて、考察しましょう。おそらくブロッケンマンが、意外に読者に人気が出たのでしょう。そして、アメリカ編直後の時期は、超人墓場の設定もなく、死んだ超人が簡単に生き返る時期ではなかったので、ブロッケンマンの再登場ではなく、その息子の登場ということになったのでしょう。

ブロッケンマンの人気については、ゆで先生の先輩にあたる漫画家やアニメーターが、ナチスの軍服(あるいはそれに似た服)を着た男を格好良い悪役に描いてきた、という事情もあったでしょう。しかし、ブロッケンJrの真面目で仕事熱心というのは、日本人から見たドイツ人のイメージです。日本人が明治時代にドイツから法律や医学、科学などを学んだことも、現代のドイツが先進工業国であるのも、そのイメージを支えています。しかし現代ドイツ人は、ナチスと現代ドイツ人をいっしょくたにして欲しくなさそうですね。

この宇宙野武士編でのブロッケンJrの言動は、父の仇とも手を組む使命感と、ラーメンマンに対する対抗心と、ラーメンマンに比較しての未熟さがポイントです。

第二回オリンピック編

ブロッケンJrがウォッチマンを破壊し、残虐超人らしさを見せます。ラーメンマンが最初、ブロッケンJrの攻撃を受けていたのは、父親を殺された息子が自分を恨むのは当然だという気持ちからでしょう。反撃するのは、ブロッケンJrの実力が、ベテランの自分に及ばないことを示すためです。実力のある人間を尊敬するのが、正義超人です。ブロッケンJrも、その精神を備えています。ですから、彼はその後ラーメンマンを尊敬します。

ブロッケンJrも、ウォッチマンを壊しています。超人プロレスの場合、リング上で闘って、相手が死んだ場合、殺した側に道義的責任はないのです。互いに残虐超人として闘ったわけですし、ラーメンマンは、この世界の規準で卑怯な真似はしていないのですから。この「卑怯の規準のゆるさ」は、現在の読者の感覚だと違和感があるかもしれませんが、現在のスポーツ化された総合格闘技と違い、昭和のプロレスはルールやその適応のされ方が色々とゆるかったのです。『キン肉マン』のいい加減さには、そういう時代背景もあります。

ラーメンマンの言う「親父のことは忘れろ」はおそらく、恨みを忘れろということでしょう。キン肉マン世界では、恨みを永く抱いている者は、「他人を許さない」=「器が小さい」という扱いになります。父親の仇として、自分を狙う敵を主人公が返り討ちにするのは、ザンギャク星人の頃からの『キン肉マン』シリーズのお約束でしょう。しかし、ブロッケンJrは珍しく、主人公ではなく主人公の仲間に倒されて、正義超人の一員になる人物です。キン肉マンとカメハメが、同じように「負けた側が、勝った側の弟子になる」というパターンです。ですが、カメハメとスグルの場合は、「弟子が師匠の仇を討つ」というパターンです。

ブロッケンJrは、ラーメンマンに負けた試合後の初台詞がこれです。

「ラーメンマン 無理をするな 二度と リングにあがれない 体になって しまうぞ」『キン肉マン (4)』文庫版

二人が入院している病院で、同室のラーメンマンに対して言っています。父を殺されても、自分が深手を負わされても、相手の心配をする、そういうブロッケンJrの優しさがよく現れています。そしてその後は、ラーメンマンの車椅子を押しています。

ブロッケンJrとジェイドは「攻撃的で主人公に敵対するが、恨みを引きずる人間ではない」という点が共通します。

7人の悪魔超人編

ブロッケンJrは、ミスターカーメンと闘います。

「ケッ…ヘドがでら 死んだおやじや ラーメンマンなら こういう だろうぜ」「敵に許しを こうくらい なら…」「右肩を くれて やれ…とな」『キン肉マン (6)』文庫版

ここでブロッケンJrが、ラーメンマンを尊敬していることが明確になります。

レフェリーを身代わりにする点は、さすが残虐超人ということでしょうか。それで失格にならないのですから、レフェリーも巻き込まれての死を覚悟でリングに上がるという、暗黙の了解でもあるのでしょう。たぶん、ブロッケンJrは、レフェリーを尊敬していないのです。

ここで、ブロッケンJrの尊敬する人物であるラーメンマンが、彼の尊敬とがんばりに応える形で、ブロッケンJrを助けます。ブロッケンJrが助けてくれた人を「救世主(メシア)」と表現するのは、ドイツがキリスト教国家だからでしょう。さなぎから出てくる蝶のように、ブロッケンJrは復活します。

黄金のマスク編

対戦相手は、ザ・ニンジャ。ブロッケンJrはカーメンに続いて、怪しい術を使う超人と闘います。そういう他人を惑わす超人と闘うと、ブロッケンJrの「若さ故の勢い」が引き立つという、原作者の意図からでしょうか。とっさの思いつきで、ウォーズマンの肺を犠牲にして助かるブロッケンJr。相変わらず残虐超人です。最後はロビンマスクに助けられます。そしてロビンマスクは、勝利したブロッケンJrを一人前の超人と認めます。

夢の超人タッグ編

どうしてブロッケンJrがウルフマンと組んだのか、作品中では説明らしい説明はありません。

ウルフマンもブロッケンJrと同じく、超人プロレスラーとしては若手です。おそらく打倒キン肉マン、先輩達に自分達の力を見せつけよう、で、話が一致したのでしょう。

そしてブロッケンJrたちの戦う相手は、2000万パワーズで、ブロッケンJr対ラーメンマンとなるはずのカードでした。ですが、それは叶わず、ラーメンマン(モンゴルマン)達にブロッケンJr達が守られるという展開になります。

このタッグ編でのブロッケンJrの見せ場は、先輩であるバッファローマンに対して、「けじめさ」という場面です。フォールしろということは、自分の力がバッファローマン達に及ばないと認めたことでもあります。完璧超人達の攻撃から、先輩達に保護されたことに対する感謝と敬意を、そうやって示したのでしょう。

王位争奪編

ブロッケンJrは、アタルにスカウトされます。この場面でブロッケンJrの家が描写されますが、壁に父親のブロッケンマンの肖像画が、かかっています。

ブロッケンJrは、アシュラマンに対してこう叫びます。

「オレたちの大切な ザ・ニンジャを 殺した そいつに とどめを さすんだー!!」『キン肉マン (14)』文庫版

組んだばっかりの仲間に対して、熱い友情です。戦った相手に友情を感じるタイプなのかもしれません。ブロッケンJrは、ザ・ニンジャに勝ったので、特に恨む理由もないのでしょう。

また、プリズマンとの闘いの最中、ブロッケンJrはこういいます。

「いいや… なん度 なげられようが 踏みにじられようが オレはソルジャー隊長を 守りぬいてみせる」『キン肉マン (15)』文庫版

この試合で、ブロッケンJrが父親からもらったドクロの徽章を捨てます。それは自分だけの力で、新たに主人となった男を守るということです。

プリズマンを倒し、ブロッケンJrの仇を討つのは、ラーメンマンです。

まとめ

責任感が強く、目的を同じくする仲間を大切にするのが、ブロッケンJrです。

若手のためか、彼の物語は「がんばりを見せて、先輩に認められる」と「力が及ばないので、先輩に守られる」の二本の糸で編まれています。認めてくれるのは、高貴な血筋のロビンマスク、アタル。守ってくれるのは、残虐なファイトをかつて見せていた、ラーメンマン、バッファローマンなどです。それを繰り返して成長していくといった感じです。そしてその糸は、主人公のキン肉マンとは、あまり交差しません。


初出2007.7.2 改訂 2007.7.2

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