チェック・メイト考

チェック・メイトについて。たぶん、近日加筆されます。

名前について

チェック・メイトは珍しく、アニメの海外版と日本版で名前の変わらない超人です。
アニメでは彼の名はチェックメイトですが、海外でも彼の名はCheckmateです。
原作の日本語表記では途中に点があるのでメイトは名字なのかと思ってみたり、単に原作者がチェックメイトで一単語と思っていなかったんじゃと疑ってみたり。
原作で英語表記すると彼の名はCHECK MATE……固有名詞だからこれでもいいような。

外人レスラーで「チェックメイト」という名の人がいたそうなので、ゆでたまご先生は、実在するレスラーの名前はまずいと思って、「人間失格」を「人間・失格」にするような感じで、「チェック・メイト」にしたのかもしれませんね。

ちなみに日常的に「チェックする」と言うと、「調べる」とか「照合する」とかいう意味になりますね。理知的なチェックはたしかに「チェックしている」こともあるような。

Checkmateは、ペルシャ語で「王の死」を意味します。チェスでのチェックメイトとはまさに片側の王の死ですから、勝利する側は「チェックメイトした!」と勝利宣言し、敗北する側は「チェックメイトだ……」と観念するのです。

ですからcheckmateは名詞では「完敗」を意味します。海外版アニメでの彼の登場の回のタイトルが "Checkmate!" だったのは、感嘆符をつけると勝利宣言らしく聞こえるからでしょう。

みんなチェック、チェックと呼んでいますが、チェスでチェックメイトを略すときはメイトです。
checkというと王手、checkmateで王手詰みなので、チェックメイトをチェックと略すと意味が違ってきます。
チェックメイトがチェックになったら「完勝」や「完敗」ではなく「あと一手」という感じでしょう。チェス盤の上の意味は。

タッグ編では棺桶に入れられてしまいましたが、対万太郎戦の時から、チェックはとりわけ「死」との結びつきが深いキャラです。
単行本3、4巻当時の苦痛も恐怖も感じないチェック・メイトというのは、まぎれもなく「死者」の比喩でしょう。不死身の者は、既に死んでいるから不死身なのだ、というのは多くの物語で語られています。そういった「生ける死者」の代表は吸血鬼でしょうね。
あのチェック・メイトは、「悪魔」であり、「死神」です。
チェックメイトの語源は「王の死」で、名前からして死神です。語源を知らずとも、チェスをやってみればチェックメイトの意味が「死の宣告」であることはわかります。敵ですから、わざと縁起の悪い名にしたのでしょう。
「死」を象徴する敵と対決するというのは、メルヒェンやファンタジーの正道ですね。

異名について

悪魔超人軍ナイトメアズ所属、「漆黒の騎士」チェック・メイト。

ナイトメアは悪夢、そして夢魔を意味します。淫魔とも訳されるサキュバスやインキュバスとは違い、ナイトメアは恐怖に満ちた悪夢を与える夢魔です。その姿は人の姿あるいは、漆黒の馬であらわされます。それはNightmareの名の意味が、二通りにとれるからだといいます。mareは古代英語で悪魔を意味するので、その名の意味は夜の悪魔という説と、mareは英語で雌馬を意味するので、夜の雌馬であるという説があります。語源的には、夜の悪魔の方が正しいようです。ですが、夜の馬というのも、単純な間違いだとも思えません。夜の馬という解釈が広まったのは、人や魔物を乗せて夜を駈ける馬のイメージや、馬に人が襲われているイメージが、恐怖感を与えるからでしょう。馬と小鬼の姿が描かれている「夢魔」という有名な絵画がありますね。画像。Nightmareが「夜の雌馬」でなく、例えば、「夜のリス」だったら、悪夢は黒いリスとして絵に描かれるようになったのでしょうか? わたしは、そうは思いません。

悪夢を名乗り、悪魔超人で、黒の馬に変身するチェックって、いいキャラですね。チェックの変身後が「漆黒の人馬」にゆで先生の中で決定されるのが先か、彼のチーム名が「ナイトメアズ」になるのが先かはわかりません。

容姿について

色について

プレイボーイ版13巻でも、Vジャンプ版2巻でも、アニメ版でも衣装が赤かったチェックですが、タッグ編1巻のカラーページおよび、2巻の表紙のチェックの衣装は黒になりました。
あれは、みたまんまの理由だと思います。

つまり、ゆで先生にとってチェックは「死んでいる」のです。
黒い服に白い肌、セピア色の襟やブロンズ色の冠、アイスブルーの目。あれはどうみても喪の色で、遺影カラーです。
タッグ編1巻のカラーページは、半ば伏せた横顔であることが、更に他を拒絶する空気を漂わせています。
ゆでたまご先生は、その時の脳内のイメージそのまんまにキャラを描く人なんでしょう。

現実的に考えれば、レスラーがコスチュームの色を変えただけということになるのでしょうが、それだって普通は演出する側の思惑無しに変わるものではありません。それに肌は「コスチューム」じゃないと思います。
元からチェックは「漆黒の騎士」でしたし、二色カラーでも黒かったので、あれこそが最初にゆでたまご先生がチェックに関して想像した色なのでしょう。

むしろ、「なぜ、オリンピック編の頃のチェックは赤かったのか」を問うべきでしょうね。
わたしは、それを熱さと温かみの表現だと思います。
ノーリスペクト編からオリンピック編にかけては、チェックは人間らしい感覚や感情を取り戻す過程にあり、情熱的なところや献身的なところをよく見せていたので、ゆでたまご先生はチェックを血の色の服をまとい、血の通った肌を持つ者としたのでしょう。
ですが、今回のタッグ編で再び、半ば死んでいる者となったわけです。
「破壊された者」および「喪失された対象」である状態から回復し、再び万太郎達と明るく笑っているような日が来たら、その時はまた赤い服を着ているのかもしれません。


初出2007.5.9 改訂 2007.5.9

Back Index