ジェイドについて思いついたままにつらつらと。
ジェイドはjade、つまりひすいのことです。翡翠、それも硬玉とは最高の「靭性」を誇る宝石です。金槌で叩いても壊れないとか言う意味での「堅さ」が「靭性」です。ダイヤモンドはひすいほどの靭性を持たず、金槌で叩いたら割れてしまいます。また、ダイヤモンドには割れやすい角度というものがあり、カットの際にはその性質を利用します。鉱物の場合の「硬度」とは何かでこすった時の傷つきにくさという意味での「硬さ」です。この引っ掻き硬度では、ダイアモンドが最高です。なお、金属では「硬度」は圧力に対する耐性で計ります。これは押し込み硬度といいます。[Yahoo!辞書硬度と靭性]
たぶん、キン肉マン連載当時「硬度」と「靭性」を勘違いしていて「サファイアの鎧」とか言ってしまったゆで先生が、読者に謎をかけているのでしょう。
最も傷つかない宝石はダイヤモンド、最も割れにくい宝石はジェイド。
その割には砕かれてばっかりやん、ジェイド、とか言わないように。何度敗北しても挫けない、それがジェイドのいいところです。
ちなみに『ゆうれい小僧がやってきた!』に「翡翠円盤鋸切の呪符」というものがあります。翡翠でできた巨大鋸を出す妖怪の道具です。ゆで先生的に「ひすいはカッター」なのかもしれません。ジェイドの技がベルリンの赤い雨なので、名前がひすいという可能性もあります。
ジェイドはほとんどの場面で、目を隠しています。これは人と視線を合わせないようにしているという内気さの表現でしょう。ブロッケンJrの場合は、軍人の非人間性の表現でした。顔の稲妻模様は攻撃性と俊敏さの表現だと思います。あごは細く、頬骨は高く、鼻も骨張っていて、白人らしい骨格です。逆三角形の顔ですね。マスクなどで耳が隠されている、あるいは耳がないキャラがゆでキャラには多いのです。これは単に「実際にプロレスのマスクがそういうものである」というだけでなく、「人の話を聞く耳を持たない」ということではないかと思います。ジェイドも例外ではなく、目と耳を隠す彼は、ときどき何も見ていない、何も聞いていない状態になります。
元から正義側のキャラは、最初敵として登場するキャラに比べて小柄な傾向があり、ジェイドもそうです。
全体として緑系の迷彩服のような色合いで、軍人っぽいです。緑は新鮮さを表し、若さとか未熟さの表現としてよく用いられます。肩からの肌の露出が他のキャラに比べて目立ち、また体の線が浮き出る布の服で、アーマー系のものは身につけていないので、少年らしく無防備な印象があります。
編み上げブーツは「自己拘束」の表現です。きちんとしたいと思って自分を縛り上げているような所が、ジェイドにはあります。首輪のようにも見えるドクロの徽章のついた黒い襟も、常に身を正そうとする彼の姿勢を表現しています。ベルトは目立つポイントの少ない彼の「正義の味方らしさ」を表現するアイテムです。丈夫そうな厚めの皮手袋は、重いものや固いものをつかむ可能性に対する備えということで、力任せな彼の一面を表してしています。
頭を保護する亀の甲羅のような自転車用のヘルメットは「精神面での耐える力」の象徴だと思います。他人に対する警戒心の表れでもあるかもしれません。敗北の時に、長めの金髪があらわになります。ガードを破られて、ジェイドの繊細でけがれのない一面が人前にさらされるのですね。ゆでキャラには二面性がある人が多く、Vジャンプ版でリングを降りると口下手とされていた、ジェイドもその一人なのでしょう。
『キン肉マンII世』7巻の「"大木は風に折らるるが柳に雪折れなし"だ」という師匠の台詞は、日本の諺をもとにしています。師匠の愛読書は「ことわざ辞典」なのでしょうか。ただ、この諺がそのまま存在するわけではなく、ふたつの諺の合成のようです。後半の「柳に雪折れ無し」は、古くからある諺です。前半の「大木は風に折られる」は、別の諺ですがやはり古くからある例えのようです。
ゆで先生は対比表現がお好きなので、スカーを大木に、ジェイドを柳に例えたのでしょう。なんで片方は雪なのに、片方は風なんだろうと、読んだときに疑問に思ったのですが(普通の対比では揃える)、ゆで先生は元を残そうとしたのでしょう。
これと似たような比喩は、紀元前からあります。
『イソップ寓話集』には、「アシとオリーブの木」という話があります。
オリーブの木は強風に折られたが、アシは風になびいて無事だったという話です。オリーブの木だと、日本人には、ちょっとイメージがわきにくいですね。
ちなみに『蹴撃手マモル』でも主人公のマモルに関して似た比喩が使われています。ここでは大木と竹でした。マモルは真面目で優しく前向きという優等生タイプの主人公でした。たぶん、ジェイドの元になったキャラでしょう。
真っ直ぐな性格で「子供の正義」の体現者のような存在です。
伊達に武器が燃える手刀じゃありません。全てを切り裂く熱いナイフのような少年です。
他人を信頼する所が彼のいいところなんですけれど。
キャラクターのパターンとしては「墜落する少年英雄」のような存在だと思います。無謀な冒険に挑んで命を落とす少年の物語は、神話によくある話です。ギリシャ神話とかだと、イカロス、パエトーン等でしょう。父親の作った羽根で飛び立ち、父親の制止を聞かず太陽に近づき過ぎて死んだイカロス、父の戦車に乗って暴走しゼウスの雷に撃たれて死んだ、の物語が一般にはよく知られています。
世間からの迫害というゆで世界におけるテーマのひとつを背負っているのが、ジェイドです。
超人が差別される理由というのは、実の所キン肉マンII世の世界でまともに描かれたことはありません。力が強くて怖いとか、姿が異様だとかいう理由すらないのです。超人とは何かという答えが曖昧な以上、差別理由もあいまいにならざるをえないのでしょう。
ですが「人間とは違う存在なのだから、超人が人間から差別されるのは当然」という感じに読者がなんとなく納得してしまうのは、人間、特に日本人というものが異質なものを排除するからでしょう。それにジェイドはドイツ出身です。ナチス、ネオナチのために「人種差別の国」という印象も強い国です。なので彼がこの物語を背負うのにふさわしいとされたのでしょう。
生まれてすぐに親に捨てられ、ジェイドを育てていたという理由で、育ての親が殺されたジェイドは深い罪悪感を抱いています。
自分はこの世に歓迎されない存在なのか、自分の存在自体が罪悪なのか?
その恐れは深く、それゆえに彼は「まっすぐに生きなさい」という養母の教えを心の支えにし、一生懸命いい子であろうとしています。
ジェイドは自分を愛してくれた亡き育ての親の期待に応えたいと思っていますが、悪人を恨んでもいます。
ジェイドには「自分は超人だから人間とはつきあえないんだ」という疎外感が強くあると思います。なので彼は同じ超人の師匠だけを信じ、友情というものを感じる機会がクリオネを応援するときまでなかったのです。もしかしたら、両親が殺されるまでは彼にも人間の友人がいたかもしれません。ですが、あの状況下では別れる他はなかったでしょう。そのために内気で人に心を許さない孤独な少年に彼は育ちました。
ですが他人と余り関わらずに来たというのは、世間ずれもしていないということで、そのために騙されやすい面もあります。スカーも孤独でしたが、保護者がおらず、育った場所がd.M.pなので、騙すか騙されるかの経験を重ねて来ました。
ジェイドが悪だとおもうものを前にパニックに陥るのは、記憶のせいもあるでしょう。
幼いときに目の前で育ての両親を殺されたジェイドの心の傷は、まだ癒えていないのです。
スカーの言うことをジェイドがあっさり信じたことについてですが、その背景には人間関係に不慣れというだけではなく「そう信じたい」という気持ちがあったと思います。
「どうして自分の育ての両親は殺されたのか」「それは自分のせいなのか」という疑問は、常にジェイドの心にありました。それが自分以外の誰かの陰謀だったなら、どんなにすっきりするだろう、そういう気持ちが反抗期と相まって「師匠の陰謀」説を信じさせたのでしょう。
何かというと弟子や息子が師匠や父を、情けないとかだらしないとかいうのが、このまんがですが、この師匠はいきなりアル中です。酒に溺れていたブロッケンJrが、ジェイドという希望をえて、厳しい師匠に生まれ変わるのが、彼と師匠の物語です。師匠には弱いところもあると最初から知っているジェイドは、コンクリートリングでパニックを起こすブロッケンJrを、静かな態度で気遣いました。ブロッケンJrが取り乱したのは、そのリングで死んだ父親のことを思い出して、です。
ジェイドは最初の戦闘で真の反抗期を迎えていません。これは正義超人だからでしょう。正しい父には従わねばなりません。
二回目で自立イベントが組まれています。師匠が正しくても、師匠と自分は違う人間なのです。道は、同じではないのです。
そして師匠はヒカルド戦の際にジェイドが一人前になったと信じ、別れる寂しさと弟子を育て上げた誇りを胸に、ひっそりと彼の側を去るのです。