ジャクリーン考

ジャクリーンについて思いついたままにつらつらと。

容姿

長くちょっとちぢれた感じの髪の毛は、華やかさを感じさせます。初登場時のビビンバに似た髪型です。
頭のアレは、超人であることの記号的表現でしょう。
しかし、超人のルーツはつくづく「ウルトラマン」ですね。

性格

現在はゆでヒロインにありがちな
「美人で勝ち気で頭が良くマジメで、よく誰かを叱っている」という枠組み内に収まっています。ジャクリーンは、主に「お兄さま」を叱っています。そして、II世ヒロインらしく、超人格闘技のファン(というか、関係者)です。凛子と一緒にいると対比で、上品なお姉様系という感じに描かれます。

家庭環境

ハラボテ氏の妻が全く出てこないので、ジャクリーンがなぜ兄のぬいぐるみを取り上げるようなわがまま娘に育ったのかは、不明です。
考えられることは、かのハラボテ氏の長男、委員長の後継者ということで、将来自分は偉くなれると、自信満々な兄を妹が羨望していたという可能性です。
ジャクリーンとしては、自分の方が美人だし、頭も良いし、しっかりしているのに、長男というだけで偉いということになっている兄は、ライバルだったのでしょう。
そして、彼女は自分が父親のお気に入りということも自覚していたので、兄の地位を奪う気漫々で、外面を磨いたのでしょう。

比喩や諺

外面似菩薩 内心如夜叉。ジャクリーンに対して使われたこの言葉は、古来『華厳経』にあるといわれますが、実際には見あたらないそうです。古くは平安時代末期の『宝物集』に「華厳経にいはく……」と出てくるそうです。『道明寺縁起』では、自分を振った僧を追って蛇になった女に対して、この言葉を使っています。彼女は人形浄瑠璃等での、「清姫」にあたる人物です。

落語の「猫久」にも出てきます。参考『落語百選 春』

万太郎との関係

万太郎がジャクリーンをケビンの血から、かばう、というのが、ジャクリーンが万太郎に対する好意を抱くきっかけです。清らかな令嬢を血で汚すというのは、相当な侮辱であり、それを防ぐのが騎士道的行為ということです。

ゆでたまご先生の最初の予定では、ジャクリーンはケビンの彼女だったのかもしれないと思います。彼女と言っても、敗北したケビンを膝枕したりする程度の役だったのかもしれませんが。
三角関係は『キン肉マン』シリーズのパターンのひとつです。
ジャクリーンが時間船に乗り込む理由も「ケビンの看病」でした。
クロエがジャクリーンを叱りつけているのは、クロエがケビンの保護者だからなのでしょう。

「勝負に勝って得たものだけが、自分のものだ」という物語のパターンからするに、ジャクリーンの所有権までは、万太郎は得ていないので(凛子の方はTHE・リガニーに勝ったので、所有権があります)今後、万太郎やケビンによる他の男とのジャクリーンの所有権争奪イベントの類が起こるかもしれません。

白木葉子との比較

万太郎対ケビン戦で、ジャクリーンに対してハラボテが言う台詞は、『あしたのジョー』で白木葉子に対してジョーが言う台詞です。
少年院のジョー達に大金持ちの令嬢である白木葉子がボクシングの用具を寄付し、慈善事業の一環として、少年院でボクシングの大会を開きます。彼女は紛れもなく「主催者」の地位にいます。

「自分で火をつけておいて‥‥
か‥‥火事場からにげだすって法はないぜ。
ええ? おじょうさんよ‥‥」
「そうやってきれいなお目々をしっかとひらいて
‥‥さいごのさいごまで見とどけるんだ」
「あんたはこの‥‥この試合の主謀者なんだから
おしまいまでちゃんと責任をもってな」
あしたのジョー』 第2集

「ジャクリーンよ。
おまえもこれからイケメンと共に
宇宙超人委員会を支えていきたいならリングを見るんです。」
お…お父様…」
「ワシらはこの闘いの首謀者じゃ…
従って闘いがどんなに凄惨な展開になろうとも最後まで見届ける義務がある!」
『キン肉マンII世』 21

「首謀者」というのは、非難の意味を込めて、ジョーが使った表現であり、委員長のように誇りを込めて言うのなら、「主催者」の方が適切でしょう。
『あしたのジョー』に敬意を表しているというか、妙な所で先達に従順というか。
首謀者と書かなければ、ゆで先生オリジナルのストーリーとして、普通に理解されたでしょう。
おそらく物語の流れが「ジャクリーンの同情心のなさに対する非難」というものだから、こうなるのでしょうが。
そこで女性は大切にすべきだという、道徳を示した万太郎がヒーローになるというわけですね。
この物語の典型的パターンに従い、名誉を守られた女性はヒーローに感謝と尊敬の念を捧げるのですね。
この大会におけるジャクリーンの役割は、「K-1の藤原紀香」とかの「名物アナウンサー」程度のものだと思います。
そう考えるとクロエのお説教やケビンの反感は「よく知りもしないくせに、格闘大会の解説をする美人アナウンサー」に対する、男性格闘技ファンや男性格闘家のいらだちのようにも思えなくもありません。
ただ、こういう考え方は「当事者にのみ語る権利がある」という類の、選民思想でもあるのですけれどね。
アニメ版では、ケビンのジャクリーンに対する「失せろ」というのに対して、万太郎が「客を選ぶのは、間違っている」みたいなお説教をします。これはアニメ脚本家が、原作に一種の選民思想を感じとったのかもしれません。ですが、ジャクリーンは客ではなく、格闘大会に仕事で関わる、格闘家以外の人ですよね。
格闘大会は、格闘家とその関係者以外の様々な人間に支えられ、濃いファンから一見さんまで、様々な観客に支えられています。それぞれにそれぞれの立場で、語る権利があります。主催者側が「男の闘い」に口を挟むのは当然のことです。ただ、主催する以上、選手の辛さをわかってやるべきだというのが、オリンピック編でのジャクリーンの物語なのではないでしょうか。

白木葉子とジャクリーンは、おそらく成長の方向が違うのでしょう。
暴力に対する恐れと苦痛に対する同情を知ってくれれば、よい。
それに違いはないのですが、葉子は上記引用箇所で「覚悟」を決めているような気がします。
この「覚悟」は、男を血塗れになるまで戦わせる覚悟です。
この後、葉子はプロボクシングの試合の主催者になるのですから。
それは男達の「辛い目にあっても、闘いたい」という、野生と情熱を理解することです。

ジャクリーンの場合はそういう「支配者」という方向には成長せず、次のシリーズでは「援助者」の一人として、ちょっとだけ手伝ってくれます。
タッグ編では、取り巻きの一人です。一応タッグ編でも「主催者の娘」には違いないので、今後ハラボテ絡みのイベントが起こるかもしれません。
ただ、イケメンの方が父から自立しそうな雰囲気ですね。

もし、『キン肉マンII世』で第二回オリンピック編があったら、今度はジャクリーンが白木葉子ばりに選手の選定から会場の予約まで、全てを取り仕切って欲しいものです。
そうすれば、これまでのキン肉マンシリーズにはなかった展開となるでしょう。


初出2006.11.6 改訂 2007.5.3

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