続 悪夢の遊戯 その1
小田切由佳は「暗黒放送局」の管理部で働く25歳の女性である。
由佳の趣味はジャズダンスとスポーツジムに通い心地よい汗を流すこと。
要するに以前からのプロポーションを持続させたいのだ。
大学時代はアルバイトでマイナーなアパレルメーカーで水着のパーツモデルをしていた。
身長172の長身、一見スレンダーに見えるが、正視するとダンスやジム通いのせいなのか、程よく引き締まった筋肉美がある。パーツモデルをやっていたのもうなずける。
身体目当てに言い寄ってくる男が後を断たず、そんな男どもに散々貢がせたあげく、アゴ先ひとつで振っていくのが由佳にとっては快感であった。
快感といえばもうひとつ、隠した趣味の方も相当に快感なのだが・・・・。

ご多聞に漏れずブランド品が大好きで大勢の男どもに貢がせただけでは事足りず、25歳だというのに800万円ものローンを抱えていた。
そんな時、偶然にも暗黒放送の裏帳簿、政界裏人脈のディスクを見つけてしまった。
由佳は密かに中目黒から松戸にマンションを変えると同時に暗黒放送を退職すると、このディスクで、1億円を条件に暗黒放送を脅しにかかったのだ。
しかし海千山千の幹部達は小娘のような一人の女にやすやすと脅されるような人間ではない。


暗黒放送最上階の小会議室に直径3メートルの円卓がある。
磨き上げられた鏡面仕上げの表面に3人の男の顔が映っている。
午後の、ブラインドを下ろしたほの暗い会議室でディスク奪還について専務の伊達が社長に何かを説明している。

「検索履歴などあらゆる方面から調査した結果、小田切由佳はセルフボンデージマニアらしいと判明しました。拘束具を購入するのはおそらく皮膚に傷を残さぬためです。けっこう面倒な遊びですから、マニアックなデザインで装着簡単な拘束具発売という餌をネットに仕掛ければ食いついてくる可能性があります。」

伊達はそう言うと部下の福永に促し、2人でボストンバッグからフランスのデポンディック社に特注したメタリックシルバーのボンデージスーツと全頭マスク、革の分厚いハーネスを取りだして円卓に広げた。

社長は卓上の物体見ながら訝しげに伊達に尋ねた。

「セルフボンデージ・・・・・何だね、それは?」

「自分で自分の身体を拘束して性的快楽を追及する輩がいるのです。米国ではオートエロチックと呼ばれておりバイブレーターを入れて自縛する者、レザーのボンデージスーツに凝る者と多様です。時々拘束具や縛った縄などが首に絡まって窒息死する事故が起きているのです。激しくもがいた形跡から、警察は殺人と扱うがすぐに事故死と判明する。いつだったか日本の弁護士もこれで死にました。」

「弁護士が・・・すると女をこの拘束具で自縛させ、ディスクを取り返した後、事故死に見せかけるわけか」

「そうです・・・そのためにこれら拘束具はご覧のようにマニアックなものにしてあります。・・・このシルバーメタリックのボンデージスーツと全頭マスクは通常のスパンテックスより薄く、縮むと肌に密着し爪の生え際やヘソのくぼみの形さえ外からわかるほどになり、また補正下着のように身体をより美しく引き締めて見せます。ハーネスもストラスプールの研究室に特注したもので、湿っているとき、初めのうちはゴムのように伸縮性があるのですが時間の経過にともなって次第に硬化して縮みはじめます。特に手首や足首と背中のリングをつなぐベルトは緊縮率が5倍にもなります。逆海老に拘束させれば背中で足と頭がくっつきます。苦しいでしょうが転がることさえできず、まずは自力脱出は不可能です。さらにこのローション、建前はボンデージス−ツを着やすくするのが目的ですが、実際はスーツをより緊縮させて肌に強く密着させ皮膚呼吸を遮断させるのです。仮に鼻の窒息が不完全であっても確実に事故死するようにしてあります。あと、取り扱い説明書も2種類作りました。説明書を取り替えれば拘束具を誤って使用した結果の事故死とみられます。」

「しかし伊達君、女が途中で異変に気づいたら」

「この全頭マスクのペニスギャグの先端に微量の睡眠薬を塗布します。ほんの20分ほど眠らせる。目が覚めたときにはもう・・・・・・・。

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