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  「西へ」 −バーシア アナザーエンド−             場面19

■ フェルナンデス 4月4日 夜  屋敷外

オレはひたすら待っていた。バーシアが帰ってくるのを。
帰ってきたら、アイツにどう謝ればいいか、そればかり考えながら。
土下座してもいい、床に頭を擦りつけても構わない。
それで許してくれるのだったらオレはなんだってする。
そんなことで、アイツの苦しみが癒されるのいうのなら百万回だってやってやる。
しかし、その日はいつもなら帰ってくるような時間になっても、バーシアは、姿を見せなかった。
同じく母親の帰りを待ちわびるミサキと二人で、ただむなしくときの過ぎるのを待っていた。
ミサキは前日のこともあり、連れていかなったんだろう。
ミサキを寝かしつけてからも、ひたすら待った。
しかしバーシアは、遂に帰ってこなかった。オレは、まんじりともしないまま、夜明けを迎えていた。
こんなことは今までなかったことだ。
一体何が起こったのだ?
あの変態野郎の気に食わないことが発生し、何かが狂い始めたというのか?
もしかしたらミサキを連れて行かなくなっただけでも、ああいう完璧主義者は怒り狂うかもしれない。
その激情がバーシアの身に降りかかったとしたら…

日が昇るとオレは、早速あのクソまみれのキザ野郎を紹介した売人を探し、町を這いずりまわった。
気ばかり焦るが、なかなか見つからない。
不自由な脚も、膝が笑ってくるように軋み始め、義足が嫌な音を立てる。
やっとのことで路地裏で見つけ、何度も問い詰めた後、ようやく屋敷の所在を聞き出したときには、すっかり日が暮れていた。


【[主人公]】「ここか……」

広大な屋敷の前に来て、その威容に驚く。
端から端までが霞むほど広い敷地をグルリと城壁のよう高い塀が囲み、侵入者を拒絶している。
もちろん盗賊避けのためだろうが、並みの人間では到底上れない高さである。
この主人があんな正確なので、敵も相当いることだろう。
迫撃砲でもビクともしないような分厚い壁である。
侵入者を拒むと同時に、一度踏み入れたものを決して逃がさないだろう。
オレは、今日一日這いずり回って痛む足を引きずりながら、唯一見える出入り口らしき所に寄っていくと、屈強なおそらく門番であろう男がギョロリと睨みつけてきた。

【[主人公]】「ここの屋敷に用がある。通してくれ」
【[門 番]】「何か、約束でもお有りかな?」

門番は露骨にバカにしたような笑みを浮かべながら聞き返してくる。

【[主人公]】「あ、いや…別に…」
【[門 番]】「では、帰ってもらおうか。当家の主人は約束もしていない人間と会うほど暇でない。ましてやこんな夜分に。出直してくるがよかろう」

ぐいっと肩を掴み、とっとと帰れと力強く押し返そうとする。

【[主人公]】「待ってくれ! ここにバーシアという女が来ているはずなんだ。そいつを連れて帰りたいだけだ!」
【[門 番]】「バーシア…? はて、聞いたことがない名だな。ふん、口からデタラメを言うんじゃない」

ほとんど取り付く島もない対応だ。肩に掛かる力が一段と増す。

【[主人公]】「そんなハズは無い! バーシアはメイドとして毎日ここに来ていたんだから」

少し考える振りだけをして、すぐさま返答を大男は返してくる。

【[門 番]】「メイドにそんな名は記憶にないな。口から出任せはやめてもらいたい。知らんものは知らんのだよ」
【[主人公]】「待て! ここの屋敷の主がバーシアの身体を買ったのは事実なんだ!」
【[門 番]】「ほぉ…身体を売買するとは…するとその女は娼婦というわけだな」

門番の眼が急に小ずるそうに細まってゆく。

【[門 番]】「その女は、お前と何か関係があるのか?」

関係…バーシアとオレの関係…それは……

【[主人公]】「バーシアは…バーシアは…オレの妻だ!」

驚くほど簡単にその言葉が口から出る。
バーシアを前にしては、恥ずかしくて決して言い出せないような台詞が…

【[門 番]】「ほほぉ…では、お前は自分の女房に身体を売らせて、のんきに遊び暮らしているダニ同然の男というわけか?」
【[主人公]】「ぐっ…」
【[門 番]】「娼婦か…そんな女が、このお屋敷に来るわけが無い。当家は由緒正しき家柄。そんな汚らわしい売女が敷居をまたぐことを許すはずが無い。くだらん言掛かりはやめてもらおう」
【[主人公]】「売女だと! もう一度言ってみろ!!」

その一言に激高したオレは、前後の見境もなく掴みかかっていた。
しかし圧倒的な体格差の上に、身体のハンデもある様では、ほとんど相手にもならず、小指の先一本で地面にねじ伏せられていた。

【[門 番]】「とっととうせろ、クズ野郎。お前のようなゲスの相手になるような女なら、今頃は路地裏で犬でも相手にケツを振りたてているんじゃないのか。ブハハ」
【[主人公]】「な、なんだと…」
【[門 番]】「なんだ、その目つきは…? 身の程を知れ!」

ガツンと横腹を蹴り上げられ、息もまともに出来ず、その場にうずくまるしかなかった。そのまま強引に引きずられ、投げ捨てられるのも同然に、道端に放りだされた。

【[主人公]】「バーシア……」

口が裂けたようで、血の鉄くさい味が口の中に広がっている。砂も噛んでしまったようだ。
痛みで身体が動かない。
義手や義足の関節が歪んでしまったのか、違和感も感じられる。

頭上には満天の星。その星の下、あの塀の向こうで今もバーシアが肉責めにのたうっているのかと思うと、この身を襲う痛みなど大したことはなかった。
ようやく渾身の力でなんとか立ち上がる。

【[主人公]】「大丈夫…なんとか歩けそうだ」

あの門番を何名か倒したところで、屋敷の中には腕利きの私兵まがいの護衛がゴロゴロいるのだろう。
それを打破する手立てなど今のオレには…

【[主人公]】「くそっ! …あれ…?」

何故、こんなときに涙が出てくるのだ。
違う、バーシアとは必ずまた会える!
そう、きっと会うんだ!

オレは未練たらしく屋敷を眺めながら、断腸の思いで一旦出直してくるしかなかった。
バーシアがもしかたら宿に戻っているかもしれないという、万に一つもない希望にすがりながら。


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