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  「西へ」 −バーシア アナザーエンド−             場面17

■ フェルナンデス 3月28日 朝 〜 4月1日 夜 安宿

次の日の朝が来て、バーシアは重い足を引きずるように出かけていった。
あまり熟睡できなかったのか、目のまわりが腫れぼったく、疲れが完全に取れているとは到底言い難かった。
念のため大丈夫かと聞くと、ウン、大丈夫と鸚鵡返しで返してくる。
少々聞き方が悪かったのかもしれないが、そう言い返す笑顔もどこかぎこちなく、カラ元気なようにも見えた。
しかし元気を出せというほうが、おかしいのだ。
バーシアのように華麗に変化した蝶が、何が巣くっているか知れない魔物の巣窟に、わざわざ捕まりに行くようなものなのだから。
くもの巣の糸に雁字搦めにされ、自由に宙を舞える羽根をもがれ、丸裸にされた後にされることと言えば、毒蜘蛛の餌食になるだけだ。
元気付けて送り出せるわけもない。
オレも、そうかと言って笑って見送ることにした。

それから一週間、バーシアは毎夜遅くに帰ってきた。
帰ってくるなり、言葉少なに寝室へ直行するのが、毎日の習慣となりつつあった。
しかも、疲労の度合いは日々蓄積されるのか、日に日に増していくようだった。
目の辺りに出来ているクマも化粧をしていても、到底誤魔化し切れないくらい、はっきりと浮き出ている。
毎日食わないと身体を壊すと半ば無理矢理誘って1,2回は一緒に食事する機会があったが、心ここにあらずという感じで、常に腰の辺りをもじもじさせ、なんだか落ち着かない様子だった。
寝ているときも同様で、あれだけ疲れきっているはずなのに、初日にも増して、熟睡できないようだった。
一度などは、息を荒げて、ベットの上で身体をくねらせていたので、驚いて声を掛けたところ、「起こしてしまったようで、すまない」と逆に謝られてしまった。
額からは滝のような汗が流れ落ちている。
その日は、そのまま眠ったようだが、どうにも息苦しそうだった。
疲れきっている中にも、芯にピンと張り詰めた何かがあって、休めないのか…
気になりながらも、オレもそのまま眠ってしまった。

そんな様子だったから、屋敷に通い始めてからバーシアの身体を求めたことは一度もなかった。

それにしても屋敷の様子を一度も語らないというのも不思議であった。
もちろん嫌な思い出など語りたくはないという気持ちは良くわかるつもりだが…


そんなある日、バーシアが出かけた後、一本のビデオテープが送付されてきた。
しかも差出人は不明である。一体何のために?
ビデオテープとは前時代的だが、この安宿にはちょうどよいかもしれない。
動くかどうか怪しいデッキがあったはずだ。
ラベルには綺麗に印字された文字で「忘れえぬ思い出」と書かれていた。

【[主人公]】「なんだ…? 何かの記念なのか?」

バーシアが帰ってきてから聞けばいいかとヴィデオはテレビの上に置き、そのままにしてオレは出かけていった。


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